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EOI冒頭に触れたように,2006年4月の診療報酬改定の影響は計り知れず,180日を限度として「打ち切り」となってしまった患者が,「リハビリ難民」と化して大きな問題が提起されています.2006年の東京都理学療法士会の調査(社団法人東京都理学療法士会ニュースNo. 153)では,外来診療体制が58%縮小し,閉鎖を余儀なくされた施設も2%に認められ,これに伴い患者からの苦情が急増している,との指摘がありました.このような厳しい医療情勢のなか,脳卒中慢性期における理学療法の効果を示すことは医療サービスを供給する理学療法士にとっても,サービスを利用・活用する患者にとってもきわめて重要な課題です.
そこで本特集は「慢性期脳卒中者の理学療法」としたわけです.まず奥田論文では,慢性期症例に対するリハ効果について,たとえ発症後180日以降でも,良好な効果を示す報告があることを示され,さらに縦断的研究から理学療法効果があることを示唆しています.大谷論文では「脳血管性認知症」に関する運動療法の意義を論じ,さまざまな臨床的アプローチが紹介されています.特に注意・意識を集中した運動トレーニングが認知機能の向上,介護予防に寄与すると述べています.竹内論文では,痙縮に対する評価と代表的なアプローチについて概説し,慢性期症例であっても,その症状は固定化したものではなく経過とともに変化を示すため,長期的にフォローアップすべきであると指摘しています.野村論文では,移動能力向上のための方法として,機器を用いた最近のアプローチと在宅でも可能な運動療法が紹介され,発症後8年経過した慢性期症例の具体的な展開を示し,歩行困難な状態から監視レベルまで改善した例を報告しています.筆者(網本)は,脳損傷例を対象としたメンタルプラクティス研究の内容について,歴史的展開と方法論的課題,および介入効果に関して文献的考察を行い,さらにミラーセラピーに関するこれまでの研究を概観し,慢性期の脳損傷例麻痺側下肢機能に着目した報告を紹介しました.本特集で取り上げられた論文は,いずれも180日以降であっても適切な理学療法が必要で,効果があると強く示唆されていることが理解できると思います.
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