とびら
最終関節可動域の美
伊藤 直榮
1
1日本工学院
pp.443
発行日 2007年6月15日
Published Date 2007/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551100959
- 有料閲覧
- 文献概要
人体の関節構造とその関節可動域を運動の美という観点から捉えてみると,その動きには唸るほどの感銘を受けるものが数多く存在する.バレーダンサーの空中でのポーズの美しさ,かの有名なフィギュアスケートでのイナバウアー,3回転4回転ジャンプ,体操の床運動,鉄棒での演技,フラメンコなど数えるといくらでもある.オリンピック選手にはわずかの身体的故障も許されない.
一方,どちらかというとスピードにあまり左右されない日本舞踊や能を演ずる所作では,手の先端から足の先までその動きを観察していると,実に全体的に一体となっており,静の中に緊張感が張りつめている.この調和のとれた動きは平均的な関節可動域内では生まれてこない.それでは関節可動域が広ければ広いほど有利かと言えば,そうではない.広さは,反面,関節の不安定に繋がる.これを乗り越えるには動きのバランスを保持する必要があり,演者は関節周囲筋の筋力と持久力をその極限まで高めておかなければならない.所作の動と静の流れが,観ている者に感銘を与えるのは,演ずる者が動いているにもかかわらず,動きながら全身の筋肉に力をみなぎらせて,いつでもどの方向にでも動ける,いつでも動の流れに入れる準備ができているからである.この状態は,野球においてどこに打球が飛んでくるか分からない状態で球を待っているときと同じである.
Copyright © 2007, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.