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Ⅰ.初めに
関節可動域評価は,理学療法士がもっとも頻繁に実施する評価の一つである.担当患者の障害像把握,治療プログラムの作成,予後や効果判定の検討という基本的な理学療法の流れの中で,関節可動域評価の占める役割は重要である.他の理学療法評価に限らず関節可動域評価においては,その結果の信頼性と正確性,および妥当な障害分析が要求される.そのためには,共通の計測器具を用い,大多数の理学療法士や理学療法学生が理解できる標準的な計測法であって,検査者や測定時間の違いによる測定誤差(以下,検者間誤差,測定間誤差と言う.)の小さいことが条件である.
近年,理学療法評価の信頼性や正確性を求めるあまり,高価な評価器械装置を使用する傾向にあるが,臨床評価においては安価,簡単,短時間実施の三要素を満たす方法が望ましい.東関節可動域評価では,上記の三要素に加え,客観性,妥当性,正確性,信頼性および有用性の評価における五つの原則が要求される.これらの三要素と五原則とを追求し,1900年代の初めより具体的な関節可動域計測の方法が発表されている1~11).我が国においては,1965年,American Academy of Orthopaedic Surgeons(以下,AAOSと言う.)が発表した方法10)を1974年,日本リハビリテーション医学会と日本整形外科学会との合同案として提示された「関節可動域表示ならびに測定法」11)(以下,リハ学会法と言う.)が,もっとも一般的に使用されている.リハ学会法は,臨床をはじめ,教育や研究の各方面でも普遍的に使用されている方法である.しかし,いくつかの問題点も指摘されており12~15),再検討する必要がある.
日本理学療法士協会では,学術部の中に評価検討委員会を設置し,理学療法士による各評価項目の再検討を継続している.関節可動域評価については,全国研修会での報告,発表を経て16,17),1984年「関節可動域テストの手引き」18)(以下,協会案と言う.)を作成し,モニター調査を実施している19).
関節可動域評価結果の表示,記録は,0°~180°法が中心であるが,病院や施設により独自の評価用紙を使用しているのが現状である.これは,担当患者の転院や予後調査などの際,混乱を招くこともあり統一化が望ましい.また,関節可動域評価に際し,角度計では計測の困難な場合や信頼性が極度に低くなる関節運動がある.このような場合における具体的な方法として,どのような報告がされているのか.
以上の諸項をふまえ,本稿では,次の点について述べる.①関節可動域評価の信頼性と正確性を高めるための臨床実施上の考慮点とポイント,②リハ学会法と協会案との比較,③関節可動域評価の表示,記録法とその新しい概念,④角度計を用いない関節可動域評価の近年における傾向の四点である.四肢,体幹の具体的な関節可動域評価法については,成書8,9)や文献1~7,10,11)を参照されたい.
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