特集 認知運動療法の適応と限界
脳卒中片麻痺に対する認知運動療法
富永 孝紀
1
,
香川 真二
2
,
山藤 真依子
2
,
高橋 昭彦
3
Tominaga Takanori
1
1医療法人穂翔会村田病院リハビリテーション科
2兵庫県立総合リハビリテーションセンター
3高知医療学院理学療法学科
pp.925-934
発行日 2004年11月1日
Published Date 2004/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551100592
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損傷した脳の機能を取り戻すためには,脳に対する治療介入を行うほかに道筋はない.セラピストの目的が,機能回復にあるならばそのための治療はどのような理論を基に構築されるべきなのであろうか.機能回復のための治療は,脳本来の働きでもある「環境との相互関係を築く能力」の改善を意味している点を認識しておく必要がある.認知器官としての脳を無視し,脳の病理も運動学習の視点も欠落した運動療法では,もはや急性期の段階から回復に限界を迎えても不思議なことではないのである1).
脳を損傷するということ
「…私は磨りガラスの入った窓がついた部屋にいる.窓の向こうに社会があって,人が歩いている.ときどき誰かが訪ねてもくる.開けようと思えば開けられる窓である.その人たちと話していると,霧が薄くなるのが感じられる.ふだん,磨りガラスの窓は閉まっており,あまり光は入ってこない.騒音も少ない.見上げるともうひとつ,上方に窓があり,そこから光が入ってくるようだ.私はいつもその薄暗い部屋の中で,膝を抱いてじっと座っていたいと思っているが,たまに思い立ってはしごをのぼり,天窓から顔を出してみることもある.そうしてあたりの風景を見回してみる.だが,天窓までのぼってみようと腰を上げることは多くない…」(『壊れた脳 生存する知』より抜粋)2).
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