特集 歩行練習
運動失調および平衡障害を伴う患者の歩行練習
溝部 朋文
1
,
萩原 章由
1
,
松葉 好子
1
,
斉藤 均
1
,
今吉 晃
1
,
前野 豊
1
,
山本 澄子
2
Mizobe Tomofumi
1
1横浜市立脳血管医療センター
2国際医療福祉大学大学院
pp.619-628
発行日 2006年8月1日
Published Date 2006/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551100365
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はじめに
運動失調は,感覚―運動系のフィードバックの障害といわれ1),中枢である小脳系,深部感覚の伝導路である脊髄・末梢神経の病変によって生じる.その結果,協調性のある円滑な身体運動が実施できない状態となり,これらは四肢運動失調と体幹失調に分けることができる2).このうち,立位歩行といったバランス能力に関与が大きいのは体幹失調であり3),運動失調症の患者が立位歩行を円滑かつ安全に行うためには,体幹の動きをコントロールし,姿勢を制御することがより重要であるといえる.運動失調性歩行を捉えた表現として,よろめき歩行や酩酊歩行,ワイドベースが一般的に使われており4),バランス不良による易転倒性や動きの拙劣さがその特徴である.
一般に協調性の評価は,重心の揺れや測定障害の程度や,Mann肢位などある定められた支持基底面の中で姿勢を保てるか否か,という視点でなされることが多い.これらの評価は重症度の判定には有効であるが,これらの視点から「なぜ動作や姿勢保持が不安定もしくは拙劣なのか」を評価し,それを基に治療介入を行うことは容易ではない.そこで筆者らは,運動失調の姿勢制御を解釈し,治療に結びつけるためにはモデルや理論が必要と考え,運動学・運動力学を用いて分析・モデル化を行った.本稿では脳血管障害による運動失調の歩行障害に焦点を当て,歩行を獲得するために重要とされる体幹を中心とした姿勢制御に着目し,運動学・運動力学的視点から,評価モデルと理学療法における治療戦略を述べる.
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