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虚血性心疾患(狭心症,心筋梗塞;CHD)はこれについての疫学的研究の結果,現代化した西側諸国の文化と生活様式に根ざすものと考えられ,西欧病(westerndiseases)と呼ばれるようになった.これをめぐって最近,CHDと栄養(食事のあり方)1),高血圧症と食物,食事2)の問題が真剣に討議されるようになった.まず,CHDのまだ少なかった時と,現代を比べてみてもっとも変化した環境危険因子は,食物と食事である.
疫学的研究の手掛りとしてCHDの少ない集団の食物を調べてみると,自然の線維(fibre)を含む炭水化物からそのエネルギーの70%をとっている.脂肪と蛋白質は植物性のものがほとんどで,それぞれがエネルギーの10〜15%を占めている.他方CHDの多い集団では,炭水化物から得ているエネルギーは約40%で内容は線維に乏しく,しかもその半分は砂糖に由来する.また脂肪は動物性のものが主体で,これが全エネルギーの40%以上を占め蛋白質も動物性のものが主である.結論的にいえば菜食主義の集団ほどCHDは少なくなるが,その際注目すべき食物は炭水化物の中の線維である.線維は以前はセルローズと誤解されていたが,本体は非セルローズ性の多糖類である.線維に富む食物は砂糖に比べゆっくりと腸から吸収され,急激に血糖値を上昇させないので糖尿病の予防となる.また大腸内容(糞)の体積を増し,水分を保ち腸内有用細菌をふやし,糞のpHを変えてCHDと胆石の原因となるコレステロールと胆汁酸の代謝に影響を与える.線維を多く含む食物で最もよいのは精白していない穀類で,次がマメ科植物(エンドウマメ,ソラマメ)がよく,その次にポテト,ニンジンとなり果物と緑色野菜はもっとも線維が少ない(3%以下).
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