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はじめに
移植の結果に影響を及ぼす主なドナー抗原は,ABO血液型抗原とHLA(human leukocyte antigen)である.血液型不適合肝移植では,さまざまな工夫がなされ,特にリツキサンの登場によりほぼ満足のゆく成績が,施設間格差なく達成されるようになった.一方で,血液型適合肝移植における抗ドナー特異抗体の臨床的意義についてはいまだ定まった見解がない.肝移植におけるクロスマッチの重要性について重要な論文は,1992年のピッツバーグのTakayaらの報告である.術前クロスマッチ陽性症例では,生存率と生着率が劣り血管合併症が多いと報告した1).続いて1999年Takayaらは,術前クロスマッチ陽性症例では慢性拒絶反応と胆管合併症が多いことを報告した2).肝病理所見は,術後3か月以内では強い急性拒絶反応や肝壊死,3か月以降になると胆管炎や慢性拒絶反応が典型的である.
わが国の生体肝移植においては,Kasaharaらが,主に小児症例においてクロスマッチで検出される抗体関連拒絶が急性細胞性拒絶反応に関連するがグラフト生着には影響しないと報告した3).最近になってAshiharaらが,成人女性症例における術前クロスマッチ陽性症例において生着率が有意に低下することを報告した4).これは成人症例の増加と手術手技の進歩によって周術期成績が改善されたことにより,生着率の差が可視化されたと推察される.一方でSugawaraらは,成人においてもクロスマッチ陽性は生存率に影響を及ばさないと報告している5).このような混乱の原因として,施設によって症例の重症度やクロスマッチの検査手技の習熟度が均一でないことが挙げられる.またクロスマッチ陽性と判定された場合でも障害リンパ球の頻度に大きな幅があるため感作の度合いにばらつきがあることが挙げられる.近年,alloantibody検出法の進歩はめざましく,定量性を高めたフローサイトメトリー(flow cytometry,FCM)や特定の抗原が同定可能なシングルビーズ法が開発されており,新たな知見が蓄積されつつある.本稿では,alloantibody検出法を紹介し,肝移植におけるalloantibodyの意義について述べる.
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