- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
肺癌は欧米およびわが国で癌死数の第1位を占める予後不良の疾患である.わが国だけでも年間6万人以上,また米国でも年間16万人ほどの患者が肺癌によって亡くなっている.肺癌は早期に発見することが困難なため,根治が期待できる外科手術が行える症例は極めて稀である.しかも旧来の抗癌剤による化学療法では延命効果が少なく,病因に基づいた新しい肺癌の治療法開発が待たれていた.
近年,肺癌の一部の症例に上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor,EGFR)遺伝子の活性型変異が生じていることが報告され,しかもEGFR変異を有する症例の一部に対してEGFRのチロシンキナーゼ活性を阻害するゲフィチニブ(gefitinib)およびエルロチニブ(erlotinib)が有効なことが明らかになった1).こうして肺癌にも分子標的療法の時代がついに訪れたのである.ただし,早期診断の面については,変異EGFRの検出は必ずしも適切な標的分子とは言えない.EGFR変異は多くの場合相同染色体の片方にのみ生じている.例えば,喀痰内に6%の肺癌細胞が存在するとしても,そのなかの片方のアレルのみ変異EGFRがあるわけであるから,喀痰全体からは3%の変異EGFRを検出しなくてはいけない.例えば,一般的なSangerシークエンサーを用いると,3%しか存在しない変異EGFRシグナルは,他の正常細胞内に存在するEGFR由来シグナルに紛れてしまい検出困難である.すなわち「配列異常」遺伝子を微量検体から同定することは困難な命題なのである.
さらにEGFR変異はアジア人,若年女性,非喫煙者に多く発症しており2),他の症例がどのような活性型癌遺伝子を有しているのかは全く不明であった.そこでわれわれは「機能スクリーニング」法を新たに開発することで肺癌の原因追及を試みた.
Copyright © 2008, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.