特集 生検の進歩
I 臓器別生検
i 組織診
16 感染症
倉田 毅
1
,
佐多 徹太郎
1
,
佐藤 由子
1
Takeshi KURATA
1
,
Tetsutaro SATA
1
,
Yuko SATO
1
1国立予防衛生研究所病理部
pp.1263-1272
発行日 1987年10月30日
Published Date 1987/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542913469
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はじめに
感染症領域の病理材料で,細菌,真菌,原虫などは,病原体そのものを通常の,あるいは特殊な染色により光顕レベルで見つけ出すことが可能である.しかし,ウイルス感染症では,ウイルス粒子が小さいこと(20〜1,500nm),細胞内のみでしか増殖しないことなどのために,光顕レベルでの検索はきわめて特殊な形態的変化を除いては不可能である.核内あるいは細胞質内に形成される封入体は特徴的変化の一つであるが,サイトメガロウイルスによる巨細胞以外は,いずれも鑑別診断が必要となる.鑑別のキーポイントは,ウイルスに特異的な抗原を細胞内に検出することであり,抗原抗体反応を原理とする染色法によらねばならない.従来の病理学領域で用いられている,いわゆる色素を用いての染色法で診断できるウイルス感染症は,まったく存在しない.治療法がない,血清反応の医療保険適用範囲が限られる,さらに微生物,特にウイルスに対する知識が全般的に不足している,等々の理由が重なって,ウイルス感染症の臨床ウイルス学的,またはウイルス病理学的診断が不十分のままの症例が数多く見られるのが現状である.
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