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ウイルス病理学的診断法には表1に示すものがある.病理学検査領域では,細胞塗抹標本と組織切片内のウイルス感染細胞の検出が対象となる.その理由は,ウイルスは細胞内でのみ増殖可能であり,また光学顕微鏡では個々のウイルスを観察することはその粒子の大きさ(25〜1500nm)から考えても不可能な点にある.ウイルスが細胞に感染し,その細胞内で増殖すると,いくつかのウイルスは感染した細胞に特徴的な形態変化を起こす.その中で診断的意義のあるものとして細胞内封入体がある.しかし,ウイルスが細胞に感染し,一定の時間を経た後でなければ,診断的価値のある(特異性のある)封入体は形成されない.また時間的経過とともに,この形態像や染色性にも変化がみられるようになる.
封入体の存在は通常行われるパパニコロウ染色やHE染色標本で確認できるが,感染しているウイルスを同定するためには,免疫細胞組織化学(immunocytohistochemistry)が必要となる.すなわち,封入体の存在はウイルス感染の可能性を示唆するだけであり,非常に特異的封入体を形成するウイルス(例えばサイトメガロウイルスのowl's eye)はごく限られているからである.多くのウイルスは封入体を形成しない.したがってウイルス同定のためには,特定のウイルスに対する特異抗体を用いて,ウイルス抗原(ウイルスが細胞に感染した後に生ずるウイルス関連抗原のことで,ウイルス粒子も含まれる)を標識抗体法(蛍光および酵素抗体法)で検出しなければならない.もっともウイルスの感染による封入体が観察される場合,メチルグリーンピロニン染色,アクリジンオレンジ染色,フォイルゲン染色でDNAウイルスかRNAウイルスかの区別はおおまかに決めることができる.しかしウイルス種までは同定できない.最近用いられるようになった,特定のウイルスの核酸配列と相補的構造をもつcDNA(complementary DNA)を用いるin situ hybridization法でもウイルスの同定は可能である.今回はより一般的な免疫細胞組織化学的なウイルス疾患の染色法について,具体的に述べる.
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