Senior Course 病理
—病理検査の技術と知識—固定 Ⅰ
橋本 敬祐
1
1順大病理
pp.116-117
発行日 1976年1月15日
Published Date 1976/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542909263
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固定の目的と理論
一つの細胞を生きたまま顕微鏡下に観察する場合,位相差と普通光とでは所見に相違があり,この細胞をパパニコロウ法やギムザ法で固定,染色して検鏡すると所見には更に大きい開きが出てくることが分かる.まして多種多様の生きた細胞ならびに細胞間物質の集団である組織になんらかの操作を加えて(固定,染色という種類の)顕微鏡下に観察しようとする場合には,加えられた操作ないし処理に従って所見に大きなへだたりの生ずるのはむしろ当然と考えられよう.我々が得られた所見を判定する場合,操作の一つ一つに対して厳しい吟味を行わないとすれば,所見自体がほとんど無意味なものとなるのは当然である.今いった操作ないし処置という言葉を実験方法といい替えても誤りではなく,一般に自然科学においては,実験方法に関する厳密な批判ということは常識であって,こと新しくいうまでもないが,これから取り扱っていく固定操作についてはこの点を特に強調しておきたい.
固定(Fixation)とは,まず,軟らかい生の細胞もしくはその集団である組織を硬化させるとともに,被染色性を与えかつ保存する操作であるということができる.以下この点につき少し説明を加える.
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