Senior Course 細菌
結核菌の業務室感染防除
工藤 祐是
1
1結核研究所臨床検査科
pp.114-115
発行日 1976年1月15日
Published Date 1976/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542909262
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感染症の病原体を含む試料を取り扱ういかなる検査も,慎重な感染防除の配慮を必要とすることはいうまでもないし,事実どこの検査室でも十分な対策をとっている.しかし,ここで述べる結核菌は,急性伝染病の病原体とはかなり異なった対処を必要とする細菌であるにもかかわらず,その性状の十分な理解のうえに立った合理的な配慮や対策をとっている所は,遺憾ながら少ないのではないかと思われる.
欧米では,以前から結核菌の取り扱いには神経質過ぎると思われるほどの注意を払っているが,我が国では長い間大まかな考え方が支配的であった.これは結核症本来の性質にもその理由があったかもしれない.すなわち,慢性伝染病である結核症は一般に発病が緩徐で,感染と発病の因果関係が証明し難く,発病当初は症状が比較的重篤でないため,とかく見逃されやすく,軽視される.更に,我が国で主流を占めていた初感染発病説は,ツベルクリン反応陽性者の感染防御力を,細菌学の常識を越えて過大評価した嫌いがある.もちろんツ反応陽性者の免疫力は否定できないが,それはあくまで相対的なもので,特殊な条件下に結核菌の大量感染を受けた場合にまで及ぶものではない.そして結核症が,我が国の死因第1位を占め続けていた時代には結核患者が街にあふれ,あまりに普通の病気であったために業務室内の感染かどうかなどとあまり問題にしなかった.
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