Senior Course 病理
—病理検査の技術と知識—染色 Ⅰ
橋本 敬祐
1
1順大・病理
pp.458-459
発行日 1976年4月15日
Published Date 1976/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542909357
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ヘマトキシリン
組織の染色用としてヘマトキシリンほど応用の広い色素はなく,Waldeyer (1863),Böhmer (1865)らがこれを組織学に導入してから既に100年以上も使われている勘定になる息の長い物質である.その理由としては,多種類の金属化合物と極めて多様な化合物を作るため非常に微細で多様な色調が得られること,しかもそれが多くは黒色調であるため,光学的に細胞構造の輪郭を顕微鏡写真において明瞭に表現できる利点がある.更に,細胞構造との結合が強固であるから他の色素と組み合わせた複合染色を行っても色が落ちないし,いわゆる永久標本として長期の保存に耐えうる.古くからヘマトキシリンとほぼ同し位置を占めていたのがカルミンであるがこのほうはわずかに黒味をおびた赤色のいわゆる臙脂(えんじ)色の核染用色素であり,文字通り臙脂虫という半翅目(カイガラムシ,カメムシのたぐい)に属し,メキシコ産のサボテンに寄生するCochinile虫の虫体を擦り潰して得られる天然産の色素であるが,核の赤染という意味ではアゾカルミンやケルンエヒトロートに代用されるようになったし,安定性と顕微鏡写真に適するという意味ではヘマトキシリンに席を譲ったということができよう.このように保存性の良い色素がいずれもメキシコ地方に産する昆虫と植物から作られたことは興味深い.
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