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1.はじめに
アルツハイマー病(Alzheimer's disease;AD)は,神経細胞内の神経原線維変化と細胞外への老人斑の沈着を2大主徴とする認知症の代表的な原因疾患である.神経原線維変化は高度にリン酸化されたタウ蛋白,老人斑は重合化したアミロイド-βペプチド(amyloid β peptide;Aβ)を主要構成成分とする異常構造物である.
さかのぼれば,ADと脳神経組織由来のアポリポ蛋白E(apolipoprotein E;アポE)の関係をめぐる研究は1991年のNambaら1)の報告に端を発する.Nambaらは,AD患者の脳神経組織にみられる老人斑に,AβとアポEが強固に結合して沈着していることを免疫組織学的に見出した.その後,Strittmatterらのグループが,家族性遅発型AD患者ではアポE4をコードする遺伝子ε4の保有頻度が対照群に比べて有意に高く2),ε4の保有はADの発症を若年化し,その影響の強さには遺伝子用量効果がある3)ことを見出してから,当該領域の研究が一躍脚光を浴びるようになった.以来,多くの研究がなされてきており,2011年11月現在,“Alzheimer's disease”と“apolipoprotein E”の2つのキーワードでPubMed検索すると5,000を優に超える論文がヒットしてくるまでになった.しかしながら,アミロイドプリカーサープロテイン(amyloid precursor protein;APP),プレセニリン-1,2,アポE-ε4など原因遺伝子が特定されてきた家族性ADに対し,遺伝的素因を伴わない孤発性ADについては,アポE4の保有,加齢,性(女性であること)などの危険因子が同定されてきただけで,その発症機序の解明には至っていない.
Nambaら1)の研究報告からすでに20年の歳月が過ぎてしまったが,それでもなお,孤発性ADの発症メカニズムを解き明かすうえで,脳神経組織に由来する髄液中のアポEとその病態生理学的機能が重要な鍵を握っていることは誰もが疑う余地のない事実であろう.とりわけ,危険因子であるアポE4とその他のアイソフォームとの生理的機能の差異がブレークスルーとなると筆者は確信している.実際に,髄液中のアポEが中枢神経系の様々な生理機能に影響を及ぼすことによりADを惹起する可能性があることを示唆する興味深い研究成績が数多く報告されてきている.
そこで本稿では,最近のいくつかの知見を交えて,髄液中のアポEとそのアイソフォームがADに及ぼす影響について焦点を絞って概説する.
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