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1 . エピジェネティクスとは
エピジェネティクス(epigenetics)とは,DNAの塩基配列に依存しないで遺伝子発現制御に関与する後成的な修飾と定義づけられる.Epiという接頭語は元来upon,on,over,afterという意味を有しているため,epi-genesis:後から創造,epi-genetics:後成的な遺伝学という意味で名付けられた.
個体発生や細胞の分化において,その後成的な修飾として,遺伝子配列以外にヒストン修飾によるクロマチンの変化とそれによる遺伝子発現制御も重要であり,DNA塩基配列以外のDNAのメチル化とヒストン修飾で維持・伝達される遺伝情報をエピゲノムと呼ぶ.このように,1個の受精卵から発生する1個体当たり40兆個のすべての細胞が,ほぼ同じ設計図であるDNA配列を持っているにもかかわらず200種類ほどの細胞に分化していくのは,発生の種々の段階でタイミング良く遺伝子発現のオン・オフが調整されているからで,それをエピゲノム,エピジェネティクスが担当している.蝶が卵からあおむし,さなぎを経由して成虫に変わる完全変態をするのも,オタマジャクシが外観で似ているナマズの孫ではなくカエルになるのも,時期それぞれで必要な遺伝子発現のオン・オフが調節されて初めて可能であり,エピジェネティックな機構の関与が大きい.また,この修飾は環境要因によっても変動し,様々な生命現象にも関与する.
このエピジェネティックな機構には,DNAメチル化にかかわる酵素,メチル化DNA結合蛋白質,ヒストン蛋白質の修飾酵素など蛋白質成分だけでなく,non-coding RNAなどRNAも含めた種々の分子が関与し,DNAのメチル化,ヒストンのメチル化・アセチル化・リン酸化・ユビキチン化などを引き起こす.エピジェネティックな機構が破綻すると,発生・分化異常,インプリンティング異常,老化,癌,生活習慣病,免疫疾患,精神神経疾患など多様な疾病の原因となる1,2).
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