特集 遺伝子検査―診断とリスクファクター
3.遺伝子診断の実際
コラム
癌とepigenetics
田中 信之
1
1日本医科大学老人病研究所免疫部門
pp.1394
発行日 2007年11月30日
Published Date 2007/11/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542101453
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癌は様々な癌遺伝子,および癌抑制遺伝子に変異が起こった結果として起こる遺伝子のジェネティック(genetic)な変化であるが,同時に遺伝子変異を伴わないエピジェネティック(epigenetics)な変化によって様々な遺伝子の発現が抑制(あるいは亢進)していることが知られている.特に,細胞増殖を抑制するように働く癌抑制遺伝子の多くのものが,このことによって癌細胞で発現していないことが報告されている.この現象は,染色体上でこれらの遺伝子の発現を制御する領域(プロモーター部位)のDNAのメチル化や,ヒストンの脱アセチルなどの修飾の変化によって起こる.この現象の検出には,その遺伝子が発現していないことを,mRNAを検出することで確認するとともに,遺伝子の特定部位のメチル化DNAをメチル化特異的PCR法で検出することが行われている.また,特定の染色体上のヒストンの修飾は,クロマチン免疫沈降法で確認できる.しかし,特定の癌抑制遺伝子のエピジェネティックな変化をもって癌の種類や予後などを判定するには,まだ解析が進んでおらず,今後の課題である.
一方で,エピジェネティックな異常はDNAの構造変化を伴っていないので,DNAのメチル化を解除するなどにより発現を誘導することが可能であり,抑制されていたそれらの遺伝子産物の本来の機能を発揮させることができる.そこで,メチル化阻害剤やヒストン脱アセチル化阻害剤が癌の治療薬として注目されており,薬剤スクリーニングや応用が試みられている.
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