- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
1929年にフレミングがペニシリウムの産生する黄色ブドウ球菌の発育を阻止する物質,ペニシリンを発見して以来,抗菌薬の開発と細菌の耐性因子獲得の歴史が始まった.抗菌薬の開発ともに,細菌は様々な耐性因子を獲得してきた.そのひとつであるβ-ラクタマーゼはグラム陰性菌のβ-ラクタム薬に対する主要な耐性因子として知られている.1980年代になると,β-ラクタマーゼに極めて安定でグラム陰性桿菌に強力な抗菌力を有する第3世代セファロスポリン,セファマイシン,カルバペネムなどの広域β-ラクタム系抗菌薬の臨床使用が開始された.1960年代から腸内細菌科の細菌より主として検出されるようになったTEM-1,TEM-2,SHV-1のβ-ラクタマーゼは,ペニシリンをよく分解するが,第2世代以降のセファロスポリン,モノバクタム,カルバペネムをほとんど分解しなかった.このため,これら抗菌薬は各種グラム陰性菌や陽性菌に幅広い抗菌活性を示すので,わが国では特に好んで用いられた.
しかし,1983年にKnotheら1)によって第2世代以降のセファロスポリンおよびモノバクタムを分解する肺炎桿菌とセラチアに関して報告された.この耐性因子は後にプラスミド上に存在する外来性のβ-ラクタマーゼであり,ペニシリンを分解していたSHV-型β-ラクタマーゼにアミノ酸置換が生じ,第2世代以降のセファロスポリンを分解する能力を獲得した変異酵素であることが明らかとなった.このように従来のβ-ラクタマーゼよりも加水分解される基質であるβ-ラクタム系抗菌薬の範囲が拡張されたため,狭域の基質特異性が拡張された酵素として基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamase;ESBL)と呼ばれるようになった.
本稿では,β-ラクタマーゼの分類,定義を示し,ESBLの検査方法,感染対策について解説する.
Copyright © 2009, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.