- 有料閲覧
- 文献概要
β-ラクタマーゼはβ-ラクタム系抗菌薬の標的酵素であるペニシリン結合蛋白から進化したと考えられている1).そのβ-ラクタマーゼのうちBushらが2bに分類したTEM-1,TEM-2あるいはSHV-1型β-ラクタマーゼ2)およびOXA型β-ラクタマーゼ(2 d)が突然変異を起こして基質特異性を拡張したものがESBL(Extended-spectrumβ-lactamase)で3),Kleb-siella pneumoniaeやEscherichia coliをはじめとする腸内細菌科の菌が産生する.表1に示す2beおよび2dの一部に属するβ-ラクタマーゼが通常ESBLと呼ばれている.最初のESBLは1983年Knotheらが報告したK.pneumoniaeおよびSerratia marcescensから分離したSHV-1由来のβ-ラクタマーゼであった4).ESBLをコードする遺伝子の多くはプラスミド上に存在しており,接合により次-と他の菌株に伝達される.1983年以降現在まで欧米ではESBL出現に関する多数の報告が認められる.しかし,わが国では1994年までESBLに関する報告は全く認められなかったが,1995年Ishiiらがcefotaxime耐性EscherichiacoliからTEM型やSHV型β-ラクタマーゼとは異なる型のESBLをToho-1と命名し報告した5).このESBLはTEM型やSHV型β-ラクタマーゼと比較してProteus vulgarisやE.coli MEN-1が産生するβ-ラクタマーゼとDNAおよびアミノ酸の相同性が高かった.Toho型β-ラクタマーゼも伝達性プラスミド上の遺伝子にコードされており,Yagiらは院内感染例を報告している6).さらにMaらはaztreonamをよく分解するESBLを発見しToho-2と命名した7).このように日本では欧米とは異なる型のESBLが多く分離され,独自の進化を続けていると考えられる.本来,ESBLはβ-ラクタマーゼ阻害剤感受性でカルバペネム系抗菌薬を分解することができない.したがって,これらの薬剤がESBL産生グラム陰性桿菌に有効であると考えられている.しかし,スルバクタム耐性ESBL6)やカルバペネム分解型β-ラクタマーゼなどの報告8)も認められ,今後のESBLの動向に注意を払わなければならないと考えられる.
Copyright © 1998, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.