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本連載のねらい
人間や医療といった不確実な現象の把握を目的とする研究においては,観察したことが偶然なのか一般化できることなのかを検討する統計学は不可欠です。さらに,その複雑な現象を捉えるためには,よほど実験的な条件を整えない限り,多くの変数を用いた多変量解析が不可欠です。近年は,複雑な現象の把握のために,新たな概念の発見やその複雑なつながりの解明に有効な方法として質的研究に注目が集まっていますが,まったく同じことの解明に多変量解析も日々進歩してきています。
ところが,多変量解析については,基本的な統計学の知識があっても,その手法の多様さや解釈の難しさから,途中で挫折してしまう人もいると思います。実はその手法のほとんどが重回帰分析を基礎につくられていて,それを理解すれば多変量解析ならではの考え方がかなり身につくということをご存知でしょうか。逆にいえば重回帰分析が理解できていないと他の手法も理解が難しくなります。「重回帰ぐらいはわかる」と思うかもしれませんが,かなり奥が深いものです。特に説明変数(独立変数)間の関係がどのように結果に影響するかはとてもダイナミックなものです。
重回帰分析,すなわち多変量解析の考え方が理解できれば,自分でデータ解析ができなくても,少なくとももっと論文が読めるようになると思います。どんな手法でもそこに共通した考え方があるからです。ここで論文が読めるというのは,より正確にいえば「図表が読める」ということで,要約や結果が読めるということではありません。
看護系の論文のなかには,筆者が図表の読み方を間違っていて結果も考察も誤りであったり,図表の読み方が不十分で考察や結論が結果の繰り返しだったりするものが少なくはないと思います。また,分析方法の理解不足による誤用が図表で判明することもあります。何より図表こそが結論を導き出すための最も信頼できる情報です。図表をみて自分で解釈して,その後に筆者による考察も読みつつ結論を考えてみることが重要です。
図表が読めるようになったら,よいものは真似することができるようになります。完成した図表をイメージしながら,研究計画を立てたり,データ解析を行なったりできるようになるはずです。
図表を読むためには,文献をみるときは必ず図表をみる習慣をつけるのはもちろん,基本となっている重回帰分析の考え方が,図表のどこに数値となって表れているかがわかることが必要になります。図表のどこがみるべきポイントなのか,それさえおさえておけば大丈夫です。
まず第1回では,重回帰分析が何をしているのかを考える前に,その前提として多変量解析をなぜするのかについて考えてみたいと思います。
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