随想=私の出会った患者
アルコール症患者とのつきあい
上野 幸久
1
1健康保険川崎中央病院
pp.63
発行日 1982年1月1日
Published Date 1982/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541207656
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都内城南地区で書店を経営しているTさんは慢性肝障害のため,月1回著者のところへ通院している.ある日,「先生これを」と言って何やら書いた紙片をおそるおそる差し出す.見ると"7月6日大5本,9日中6本,11日中3+小2本……"といった数字が並んでいる.ずいぶん努力しているでしょうと彼は自慢する.なんのことはない自らの勤務評定で,飲んだ酒の本数を書き連ねているのである.なおも読んでいくと大2本+水割り3杯,ワイン1本+水割2杯などというのもある.
克明につけた彼の飲酒日記を半ばあきれ,半ば感心しながら眺めていたが,なぜ中瓶を8本も飲んでいるか?大瓶3本か4本のほうが手間がかからないし安いのでは……と問うと,イヤその店には中瓶しか置いてなくてと言う.また大瓶6本というのもあるので,3本くらいでも腹がふくれるのによくまたそんなにと言うと,いや3時ころから5〜6時間かけて飲みましたのでねと答える.一晩に飲むアルコール量としては相当なものだが,小生の言いつけを守って中2日ないし3日おいて飲んでいるゆえか,半年前の初診時に比べて肝障害が程度はむしろ軽く,GOT,GPTなどは軽度の異常にとどまり,γGTPの上昇が目立つ程度で進行性は認められない.
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