連載 続クロストーク医療裁判・1【新連載】
鑑定書は何を証明するのか―顆粒球減少症死亡事件―最高裁平成9年2月25日判決の事例から
筈井 卓矢
1
,
畑中 綾子
2
,
小川 陽子
3,4
1前・東京地方裁判所
2東京大学大学院法学政治学研究科
3東京大学大学院医学系研究科 生命医療倫理人材養成ユニット
4東京大学循環器内科学
pp.54-59
発行日 2008年1月1日
Published Date 2008/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541101100
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本連載は65巻3号~66巻2号に掲載した好評連載の続編である.裁判実務・法律・医療分野に携わる三者が,最高裁判決を事例に論点を解説し,多角的な見方を提供する.
続編1~4回目は「鑑定書・医師の私的意見書の評価」について取り上げる.医療関係者が医療訴訟に当事者(被告側)以外の立場で関与する場合で多いのが,裁判所に選任されて鑑定書(鑑定意見)を提出したり,鑑定人として尋問を受ける時である.最近は,一方当事者(被告側に限らず,原告側もありうる)から依頼を受けて,争点の医学的問題について意見書(私的意見書)を作成し,証人として尋問を受ける医師も出てきており,その重要性も高まってきている.
鑑定書については,鑑定人の立場や鑑定書の扱いはもちろん,そこに表明された専門家の意見が裁判所にどう評価されるかといった点まで,裁判所や弁護士等の法律家側と鑑定人に選定された医師ら医療者側との間で,認識が食い違うことが少なくない.それが医学界の,医療訴訟や裁判のやり方に対する批判的な見解につながっている側面もあろう.今回の平成9年最高裁判決は,鑑定書が科学的な証明ではなく歴史的な証明のための証拠であること(医学界と法曹界との認識が食い違うこととなる出発点的な問題である)を明確にしたものである.
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