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「現代の闘病は情報戦だ」
これは約四年半前,「インフォームド・コンセント」に関して作家の柳田邦男氏に取材した際,患者を取り巻く医療の現状を彼が評した言葉だ.当時,筆者は,自身の乳がん手術を終えて間もないころで,乳房温存手術でいけるか全摘手術が必要か,腋下リンパ節を郭清すべきか否かといった治療の選択を経験したところだった.また,ちょうど術後の補助治療の選択に悩んでいる時でもあった.抗がん剤治療をするべきかホルモン剤治療だけにするか.また,どの薬剤または組み合わせを選べば科学的に効果が高いと証明されているうえ許容できる範囲の副作用で治まる可能性が高いのか――.自分の望む治療を受けるために少しでも多くの情報を得て,自分で納得して治療法を選びたい.もちろん主治医から説明を受けて相談しながら選択するのだが,それでも一般書から専門書,インターネットなどで「何かいい情報はないか」とむさぼっては,自分の決断が予後に影響する可能性があると思うと,恐怖感にも似た責任の重さを痛感していた.それだけに,“情報戦”には「我が意を得たり」と印象深く心に刻まれた.と同時に,柳田氏が新米患者の筆者に,納得して治療を受けていくための“患者としての心構え”を解いてくれた言葉のようにも感じられた.
その後も,局所再発が見つかるなど病状が変化し,効果と副作用を考えながら納得できる治療を選ばねばならない場面に遭遇するたび,この言葉を思い出し,“情報戦を闘う”ことの難しさを思い知らされた.それは,術後1年経って,読売新聞朝刊で自らの闘病体験から医療問題を考える連載コラム「がんと私」を始めてから一層強く感じるようになった.読者から,「専門医はどこにいるのか」「この治療法でいいのだろうか」などの相談がひっきりなしに寄せられ,情報の波にのまれ翻弄される患者・家族の姿をまざまざと見せつけられるようになったからだ.その様相は,今もそう変わらない.
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