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はじめに―高齢者のための医療・介護・福祉の包括的なケアは可能か
本稿は,高齢者のケアをめぐるわが国の政策の展開を検証して,団塊の世代が後期高齢者に突入する2025年に向けたサービス提供のあり方を考えるものである.2012年までの介護療養病床の廃止と老人保健施設等への転換という政策誘導は病院にとって大きな経営判断を迫り,国民皆保険や老人医療費無料化制度によって量的な拡大を続けてきた病院は一つの時代の終焉を告げられている.
かつてのエネルギー革命による石炭から石油への構造転換,日米貿易摩擦後の繊維産業への転換奨励金,米の自由化による農家への補助金など社会のニーズに合わせた構造転換は当然のことであり,サービス提供者は常に市場の期待に応えなければ生き残れないのである.問題は,転換のための社会的な摩擦をいかに小さくするかであろう.
そのためには,高齢者の医療・介護・福祉をめぐるこれまでの施設サービス体系を検討し,特に介護保険以後の施設サービスの変化を検証する必要がある.1973年の老人医療費無料化制度によって生まれた医療偏重の高齢者ケアがどのように変わろうとしているのか,最後の社会保障制度といわれる介護保険制度の政策効果を評価しなければならない.そして,国民皆保険と高度経済成長の最大の恩恵者である団塊の世代がどのような高齢者ケアを望んで実現していくのか,この2つで今後の介護施設と医療のあり方は決まるはずだ.
そこで本稿では,療養病床を考えるための歴史的なキーポイントである次の5つの政策転換,すなわち,①1973年の老人医療費無料化制度,②1983年の老人保健法の制定,③ 1986年の老人保健施設の創設,④ 1990年の「介護力強化老人病院」の創設,⑤2000年の介護保険制度の施行を取り上げて,わが国の病院のなかで異端視されてきた「老人病院制度」の歴史と機能を考察する.そして,医療と介護をめぐる歴史的な政策展開の中から,今後の介護施設と医療のあり方を展望する.
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