特集 社会保障・税制改革と医療
これからの資産課税のあり方
国枝 繁樹
1
1一橋大学大学院国際・公共政策大学院
pp.898-902
発行日 2006年11月1日
Published Date 2006/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541100408
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■はじめに―経済格差の拡大と資産課税の役割
わが国における個人間の経済格差の拡大に関心が集まっている.経済格差を生む要因としては,本人の稼得能力の違いに基づく格差と親からの相続財産の違いに基づく格差が考えられる.後者については,バブル崩壊後の資産価格低迷により,関心が薄れた感もあるが,今後,少子化の進展により,相続財産がより少数の子どもの間で分配されることに鑑みれば,親からの相続財産は,経済格差の重要な決定要因の一つであり続けよう.
経済格差の解消に大きな役割を果たすのが累進的な税制である.最近は,税制を通じた「結果の平等」の確保については否定的な見方もあるが,「機会の平等」確保の重要性については市場メカニズムを重視する論者にも受け入れられよう.すなわち,「機会の平等」が確保されていなければ,市場メカニズムにおける競争自体が公平なものでなくなるからである.特に,相続税・贈与税等の資産課税には,世代を超えた富の過剰な集中を是正し,「機会の平等」確保に大きな役割を果たすことが期待される.
本稿においては,まずこれからの資産課税のあり方につき,相続税・贈与税を中心に論じることとするが,後半においては,本誌の読者の関心が高いであろう医療法人改革と税制の関係一般についても論じることとする.紙幅の制約上,相続税・贈与税のあり方につきごく簡単に論じざるを得ないが,興味のある読者は,相続税・贈与税の効率的な側面については,国枝(2002)1),また相続税と経済格差の関係については,国枝 (2006)2) において詳説しているので,参考にされたい.
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