特集 研究をめぐって
作業療法と研究
寺山 久美子
1
1都立心身障害者福祉センター
pp.177-182
発行日 1972年6月9日
Published Date 1972/6/9
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1518104222
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Ⅰ.はじめに
筆者自身は,いわゆる‘研究者’ではない.大学卒業後約10年間,今日に到るまで医学的リハビリテーションの現場を渡り歩いてきた(?)‘臨床家’である.周知のごとく,われわれのこの分野は‘学問’として確立されておらず,技術の上でも全く手探りの状態にあった(今日でもこれは変わらず),わずかに先進国の経験を参考にし,批判しながら模倣することが手がかりといえばいえた10年であった.したがって,臨床家だから患者サービスだけしていれば良いという安楽な姿勢は許されず,たえず実験をくり返してきた感が強い.歩きながら考える,歩きながらまとめる,時々迷ってその歩みをとめる――これから述べようとすることは,筆者のこの体験が基盤となっている.加えるに,最近,臨床の合間をぬって行なった研究‘ADL圧力素子装置による机上の分析’の論文を脱稿した.この研究を通し,筆者は様々のことを学び得た.この体験は,作業療法士が今後研究分野に進出していく際,必ず役にたつものであろう,共有化できるものであろうと考えたわけである.世に研究者は多く,研究分野は広い.たくさんの研究に関する書物も出ている.しかし,新しい分野をうち立てようとする時,既成の研究方法,研究態度,研究観のモザイクだけではとても律し切れない.それを目ざそうとする人々の中から,借りものではない姿勢が生み出される必要があろう.作業療法士自身の中から,‘作業療法学’確立のための方法論が作り出されなければならない.先人の優れた業績に学びつつ,自らの方向を考える――そうした意図の元に,いわば今後のたたき台としてこの論文は書かれた.
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