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Ⅰ.初めに
知恵遅れ,知的レベルの低い児の存在はずいぶん古い時代から知られていた.精神薄弱という診断名もすでに4世紀ころには認められていたという.そしてかなり早い時期から三段階の区別すなわち白痴・痴愚・魯鈍に分けることが行われていたようである.
知恵遅れに対する古代社会の対応は,あるいは悪魔に憑(つ)かれたものとして恐れられたり,あるいは社会のお荷物的存在として社会防衛的立場から切り棄(す)て抹殺しようとするものまでいろいろであった.やがて国家形態ができ上がると,国や社会に対して奉仕できないもの,遅れたり劣ったり役に立たないものは棄てられ殺されるのが当然とされた(スパルタのリクルグス法典).中世に入っても悪魔に憑かれたものとして虐待されあるいは牢に入れられひどい仕打ちを受け続けた.このような故無い侮(あなど)りと差別の歴史はさらに続いて,社会のため無用のもの,役立たず,害をなすものとして13世紀から18世紀までに火あぶりにされたものは数百万人に達したと言われている.我が国においても江戸時代「間引き」や「棄て子」が通常行われていたし,奇型の子や身体障害・知能障害の子が見せ物小屋に売られ,衆目にさらされていた.江戸時代のみでなくつい近年まで行われていたことはよく知られているところである.
私たちは現代においても,知恵遅れあるいはその他の障害児者に対して差別のあることを残念ながら認めねばならないし,その差別が治療の足を引っぱっていることを理解しておくべきである.私が初めにかく言うのは,精神遅滞の治療の基本に治療者の心の在りかたがたいせつであること,技術だけで治療は成立しないことを知っていただくためである.
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