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はじめに
精神遅滞児とは,知能検査によって測定される知能指数が明らかに同年齢児の集団の平均よりも低く,同時に食事や排泄,さらにことばなどの適応行動の技能の発達が障害されている子どもを指すと定義されている.この定義にしたがって精神遅滞と診断するには,その子どもがある年齢以上になっていることが必要であるし,また知能面および生活行動面に焦点をしぼって評価作業をすることになる.しかし,実際の臨床場面では,そのような年齢に達する以前に診断して治療や指導を開始することが要請されているばかりでなく,精神遅滞児には精神機能領域と同時に身体・運動領域でも健常児とは異なった特徴や発達様相が観察されるのである.たとえば,のちに精神遅滞と判明する子どもは,すでに乳児期に著明な筋緊張低下からフロッピーインファント(くにゃくにゃ乳児)と呼ばれて精神遅滞の超早期診断の指標になる例が少なからず見られるのである.また特別な麻痺などがないのに幼児期に始歩が遅れる場合には,精神遅滞児の可能性が高いことも臨床上事実である.
さて,精神遅滞児は,どのような身体・運動発達を示すのだろうか.愛知県心身障害者コロニー内の愛知県立春日台養護学校の小学部・中学部・高等部の児童・生徒の身体計測,体力診断テスト,運動能力テストを実施し,その年齢毎のデータの追跡から,精神遅滞児の運動発達の様相を調べた.
春日台養護学校は,精神薄弱(この呼び方は教育行政上の用語である)養護学校で,精神遅滞児のほか,自閉症児も通学しているが,顕著な肢体不自由児や病弱・虚弱児はいない.
運動発達の調査は在学児の全員について行っているが,この報告では自閉症児は含んでいない.その理由は,自閉症児では特有な精神病理上の事情が運動成績に重大な影響を及ぼすので,運動発達を見る場合,精神遅滞児と同一群に含めて集計検討するには困難を伴うからである.
調査の対象は,小1から高3までの精神遅滞児で,年齢は6歳から18歳までの男子97人,女子73人である.医学的診断は愛知県心身障害者コロニー中央病院の精神科医が,知能検査は愛知県立大学の臨床心理学の教官がそれぞれ養護学校に出向いて実施した.体力・運動能力テストは学年はじめの5月に全校いっせいに行った.このテストは,各学級の担任の立ち会いのもとに養護教諭,体育担当教員が実施・記録した.
体力診断テストの種目は,身長,体重,胸囲,座高,垂直跳び,背筋力,握力,伏臥上体そらし,立位体前屈である.運動能力テストの種目は,短距離走,幅跳び,中距離走,ボール投げである.これらの測定結果を健常児の場合と比較する目的で愛知県下の児童・生徒のデータの平均値と対照する.
以上の各種目のテスト結果から,精神遅滞児の身体の成長と運動機能の発達を発達曲線で見てみる,グラフ中,実線は精神遅滞児の年齢ごとの測定値の平均を示し,縦線は測定値の標準偏差である.点線は,愛知県下の同時期の健常児の測定値の平均である.年齢目盛りの下の数字はその年齢に相当する子どもの人数を示す.また年齢目盛りの下の棒グラフは,対象児数を示し,斜線を施した人数は測定が可能であった人数を表し,白棒は測定不能の子どもの人数を表す.
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