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Ⅰ.初めに
我が国の脳卒中患者に対する理学療法は,従来からの抵抗運動,複合基本動作訓練,物理療法などに取って代わり,神経生理学的アプローチが主流になってきた.Bobath法,PNF,Brunnstrom法などの神経生理学的アプローチの普及は,その善し悪しを問わず,我が国のリハビリテーション医学界に大きな波紋を投げかけてきた.そして今,古くて新しいHirschberg1)の考えかたも改めて見直され,また神経および筋生物学的知見2)がその運動療法に取り込まれようともしている.逆に近年,神経生理学的アプローチに対する疑問,批判がとみに増え,とりわけBobath法については攻撃の的になっている感がある3~7).
元来Bobath法は治療医学的立場から生まれてきたものであり,治療医学では治らないものをいかに社会に適応させていくか考えるリハビリテーション医学との間に大きな隔りがあるのは当然ではある.しかし,脳卒中片麻痺がまったく治らないということはないわけであるから,二木8)などによって報告されているような予後の推定をしながら合理的にプログラムを遂行していくことが肝要である.Bobath自身9)やBobathに影響を受けたDavies11),Todd12),Johnstone13)らによる著書のほとんどは運動療法について示されている.Bobath法は本質的には運動療法中心であるが,その体系には動作訓練も含まれている9,10).その点は誤解を招いているようであるが,Hirschberg1)などが唱えるADL能力とは異質のものであり,一般リハビリテーション医の立場からするとBobath法には不満を感じるのも当然のようでもある.
ところで,運動療法は的確な評価に基づいて合目的的に行われるべきものであるが,現在行われている脳卒中片麻痺の運動療法ははたしてそのようになされているのであろうか.Brunnstrom14)や中村15)の功績も大きいが,その運動機能評価を十分にできうるほどその運動障害や感覚障害が明解にされてはいない.理学療法士にとって精神機能障害,高次脳機能障害についてはさらにそうである.Bobathのとらえかたが正しいか否か結論は出ていないが,脳卒中による障害をより細かくみていこうとしているのは事実であり,それに勝るものはほとんどない.残念ながら大川16)も述べているように,技術としては論文などで普遍的に知らしめるようなものではないために誤解さえ生んでいる.我々は神経病理学,解剖学,生理学,運動学などの知見を最大限に活用しながら,より客観的にその障害をとらえ,理学療法の適応と限界を明らかにしていかなければならない.
以上の観点から,脳卒中の理学療法,なかでも運動療法の在りかたについて再検討してみたい.
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