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はじめに
“イギリスは万事に変化の乏しい国である”というのが過去二回訪問した経験のある筆者の率直な感想である.技術革新に勤しむ日本の社会と比較すれば遠い昔の大英帝国の栄光に取り付かれ,時代の変化についてこれない不器用な国に見えるのは仕方がたい.反面,今日の近代社会の礎となった産業革命,あるいは文化面ではビートルズやミニスカートの発祥となったのもやはりイギリスである.古い伝統の中に時おり伝統に反抗するが如く瞠目に値する出来事がおこる面白い国でもある.理学療法に関していえば,御存知の通りChartered Society of Physiotherapy(C.S.P.)という世界のPT協会のお手本ともいえる団体のもとに,永い伝統と強い団結を誇っている.10年前の理学療法を知る人が今日再びイギリスを訪問した場合,この間に起こった変化を発見するのに苦労するであろう.しかし理学療法サービスを含む福祉制度の徹底度は我が国の比ではない.見方を変えれば急激な変化が起こる術もない程に成熟しきった技術であり,サービスであると云えるのかも知れない.地域への浸透は満遍なく行われ,とくにOTはdomiciliary OT(最近ではcommunity OTの方が一般的)として地域毎に配置されている.病院や施設内活動に終始しがちな我が国のPT・OT業務に比較すると,はるかに実際的で患者寄りのサービスを提供している.このような底辺の広さから種々の卓越した治療法が構築され,また身障スポーツのI.S.M.G.(International Stoke Mandeville Games通称パラリンピック)が行われるようになったと想像する.諸外国,とりわけ我が国のように経済の成長に伴ってリハビリテーション医療がにわかに台頭し,理学療法においても質量ともに急成長した国に比較すると旧態依然とした治療手技を用いるイギリス流に派手さはないが,彼らの価値感に基づいたやり方にイギリスという国を感じる.しかしここに至って彼らの考え方,とりわけ教育に対する熱意は大きく変化してきたようである.
本論では最近のイギリスにおける理学療法の教育制度にスポットをあて,1983年度Physiotherapyをレビューしたがらその変革とイギリスのPT教育の目指すところを追ってみた.そんなわけで,いつもの雑誌レビューと異なるが,許されたい.
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