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はじめに
イギリスでは,1983年4月1日に,特殊教育の新たな方針と施策を,体系的に法制化した「1981年教育法」(以下「81年法」と略称)と,同法の施行規則「The Education(Special Educational Needs)Regulation 1983」(以下「施行規則」と略称)が,同時に施行された.「81年法」は,1978年に提出された「ウォーノック報告」の数多くの勧告のうち,立法措置が必要なものについて,規定した法律である.同法は,従来のイギリス教育制度の法的基盤であった「1944年教育法」の中の,特殊教育に関連する規定を大幅に修正した,という点で,画期的な意義をもっている.
「81年法」の骨子は,以下の通りである.
第1は,従来の10種の障害種別カテゴリー(盲,弱視,聾,難聴,精神遅滞,てんかん,不適応,肢体不自由,言語障害,病虚弱)を撤廃し,これに代わって,「特別な教育的ニーズ」という,新しい包括的な概念を導入したことである.この概念の導入によって,特殊教育の対象は,全学齢児童生徒の約20%にまで拡大されたのである.
第2は,統合教育の原則を,明確に打ち出したことである.地方教育当局(Local Education Authority:以下LEAと略称)には,「特別な教育的ニーズ」をもつ児童生徒に対して,特別な教育措置を講じる義務が課せられているが,この措置は,親の意向を考慮した上で,以下の3条件と両立する場合,通常の学校で講じなければならない,とされたのである.3条件とは,①当該児童生徒が,適切でかつ特別な教育措置を受けられること,②当該児童生徒と一緒に教育を受ける児童生徒に,効果的な教育を与えるのを妨げないこと,③財源を有効に利用すること,である.
第3は,特殊教育における親の権限が強化されたことである.具体的な内容としては,児童生徒の教育措置の決定に,親が関与できる機会が拡充されたこと,その決定に対する親の不服申し立て権が確立したこと,等が注目される.
第4は,「特別な教育的ニーズ」の評価に関する手続きが,整備されたことである.その中でも,「特別な教育的ニーズ」をもつ児童生徒に関する判定書の作成・維持・保管についての制度,いわゆる記録システムが確立した点は,従来の場合と大きく異なる点である.
以上が,「81年法」の骨子である.「施行規則」は,このうち,第4の点,つまり,「特別な教育的ニーズ」の評価と,「特別な教育的ニーズ」についての判定書に関して,詳細な規定を行ったものであり,全12条と附則から成っている.
以下,必要に応じて,「81年法」の内容にふれながら,「施行規則」の規定を,評価と判定書に分けて紹介してみたい.(「81年法」の詳細な内容については,文献5)参照していただきたい.)
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