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はじめに
前回述べたように,感覚を知覚より基本的段階として知覚と区別して考える場合が多いのと同様に,認知(cognition)を知覚より一段高次な段階を指す用語として用いることがしばしばある.しかし,感覚と知覚の境を明らかにすることが困難なように,知覚と認知の境を定義することも難しい.
認知という語はさまざまに用いられる.上述のように,知覚より一段高次な過程を指す場合も少なくないが,感覚・知覚を含めた広い概念としても用いられることもある.さらに,記憶・思考・言語を含めた広大な領域を意味する場合もある.
われわれが何かの物を知覚する場合には,それがどうゆう色で,どのような形をしているということだけでなく,それが何という名で何に役立つか,さらにはその物に関する思い出や,その物の価値なども,心にうかぶであろう.例えば,ある文字な見た場合にも,それが自分の名であったり,なつかしい地名であったりすれば,ただの文字を見る場合と同じではない.まして,漢字を全く知らない外人が漢字を見るときと,われわれが漢字を見る場合では,全く異なっている.また水を見ても,通常の場合と,運動した後で喉が涸れているときでは,全く違う,このように,知覚に,意味や,要求や,言葉が関連している場合に,認知と呼ぶことが多い.
また,知覚を,外界から情報を受けとって処理する過程とみなす立場もある.近年,盛んになりつつある認知心理学(cognitive psychology)は,このような情報処理(information processing)の見方をする,この立場は,知覚を認知の過程とみなす傾向が強い.
以下では,主としてこの認知心理学の立場から,認知に関連の深い,知覚の問題点を概観することにしよう.
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