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はじめに
香りは私たちの日常の中で様々に用いられ,生活に役立っているが,これまでヒトの生体への影響については,十分な解明がされてはこなかった。他の感覚系に比べると香りの計測法や評価法は定まっておらず,一般に科学性や客観性を欠くことが多く,その機序が明らかになっていないことから不明なままに放置されていた感があった。しかし,昨年(2004年)のノーベル医学・生理学賞に代表されるように,近年,嗅覚系の仕組みやメカニズムの解明に大きな関心が寄せられ,ようやく,香りの生体への影響が注目されるようになってきた。
そこで,われわれもヒトの脳における香りの感覚・知覚や香りの認知機能を非侵襲的に客観的に計測する手法や解析法の開発を推進してきた。まず初めに取り組んだのは,香りの脳波計測であった。その後,香りの脳波計測を行っている中から発展してきたのが脳磁図(magnetoencephalograohy:MEG)計測法であった。
食品の香りや味を捉えているのは鼻や舌の感覚器官であるが,それを知覚し認識しているところは言うまでもなく,われわれの大脳である。現在,人間の「脳」の働きや仕組みに対して各方面から強い関心と期待が寄せられているが,「脳」はいまだに未解明ながら,その柔軟性(やわらかさ),環境変化への適応性(順応)・敏感性,「記憶」や「学習」のような高次の情報処理能力の豊かさなど,現在のコンピュータや人工機械には見られない魅力に満ち溢れている。これを解明することは,脳梗塞や,痴呆,老化など,緊要の課題である医学に貢献するだけではなく,工学的に応用すれば新しい産業技術を産み出す大きな可能性を秘めている。本項では非侵襲,リアルタイムに人間の「脳」活動の全体を捉える脳磁図を用いた香りの知覚と認知に関する最近の研究を紹介し,香りの研究が切り拓く今後の新しい研究分野の可能性,さらには人間の五感情報計測によって,ヒトの認知・行動,学習・記憶・情動というような脳の高次情報処理に深く関連している「感性情報処理」研究への展望についても触れたい。
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