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Ⅰ.はじめに
頸髄損傷による障害者の雇用や就労の実態を正確に調査したものは,現在筆者の知る範囲では無い.しかし,多少のしびれが残る程度の軽度の者は別として,大部分は四肢機能に障害をもつ重度であり,職業的にハンディが大きいことから,雇用や就労には著しい困難が伴なうという事情は,障害者福祉の分野に働く立場からは,かなりの程度まで知ることができる.しかし,その実態は必ずしもつまびらかではない.
現在,雇用促進事業団の雇用職業総合研究所で,頸髄損傷者の雇用のケースについて調査をすすめていると聞き,担当者に伺ってみると,雇用のケースは,福祉工場を含めて10数例しかとらえることができないということである.しかも,雇用されているケースは比較的軽度であるか(上肢にしびれが残っている程度),車椅子使用であっても上肢機能が比較的良い者であって,雇用先は役所(公務員)と福祉工場に多く,民間企業はわずかであるということである.民間企業の場合は新規雇用ではなく,いわゆる継続雇用で,嘱託あるいは在宅雇用のかたちをとっているところが多いようである.
授産施設の全国実態調査でも,脳性麻痺者と車椅子使用者の集計はあるが,障害別の集計はされてないので,頸髄損傷の人が増えつつあるという推論はできても,何人くらい就労しているかということは分っていない.
また,労働者災害保険制度による労災作業所に働く障害者292名のうち,脊髄損傷者は290名で,この脊損者といわれる中に頸髄損傷者が11人含まれているとのことである.このような作業所でも頸損者はごくわずかであるということである.
筆者の所属する東京コロニーは2つの福祉工場と2つの身体障害者授産施設,2つの社会事業授産施設を経営しており,二百数十名の障害者が雇用労働および授産就労をしているが,頸損者は雇用関係にある者が3名,授産就労14名と比較的少数である.
頸髄損傷は,交通事故やスポーツ事故,産業災害などによるケースが圧倒的に多く,受傷時年齢も20歳~30歳の間に集中している(後述).知能的には,中学・高校・大学在学中の受傷による中途退学のケースの多いことを念頭においても比較的高学歴であり,非障害者に比較して劣ることはない.問題はその障害が下肢はもちろん,上肢機能に著しいというところに特徴があり,これが就労を困難にしている最大の要因となっていることは知られているとおりである.
東京コロニーでは,3年ほど前からこうした点に着目して,もっている知能を生かし,急速に発達しつつあるテクノロジー(主としてエレクトロニクスの技術)な活用した職種の開拓と,在宅就労を可能にするシステムの研究を行ってきたが,本年2月1日から頸損者を主な対象とする具体的事業に着手した.この研究の過程で,頸損者の自主的な組織である頸損連絡会などの協力を得て,実態調査や実験なども行ったので,そうした資料と経験を踏まえて,その実情と課題について提起をしてみることとしたい.
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