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はじめに
『作業療法士としての適性』というテーマで執筆することになったが,果して筆者自身が作業療法士としての適性,あるいは執筆者としての適性があるかどうか,はなはだ疑問であり,心苦しいことではあるが,限られた文献を参考に私見をまじえて述べることにする.
理学療法士としての適性とは果して要求されるものが異質のものなのか,あるいは望まれる作業療法士像なるものが存在するのか,療法士の間でも公的にも私的にも論議され,また自分自身が作業療法士としての適性が高いか低いかということに関して考えた経験も,おそらく少なくないものと思われる.作業療法士であるためには国家試験に合格し,作業療法士免許を取得していることが絶対的条件である.したがってそれに必要な知識は十分に教授され,学習されなければならない.しかしこれだけでは療法士として十分なる資質であるかというと誰もが否定するところである.作業療法の対象はなんらかの形で障害を持つ人である.人と人との関係を円滑に保つのは一般的にも難しいものである.まして一方がなんらかの形で援助を必要とする障害者の例では,それが一層困難で,療法士にはそれなりの役割が当然生じてくるものである.医療に携わる専門職に対しての人間性の重視,あるいは人類愛に根ざした洞察力のある接し方などと多くの人から指摘され,療法士としての技術の向上のみならず,職業的態度,あるいは人格の向上なくして医療技術はありえないと言われる昨今である.
作業療法士といっても,それは治療場面で働く,いわゆる臨床家であるかも知れないし,また教育機関で働く教育者であるかも知れない.他に研究者あるいは管理者としてその技量を発揮している人もいる.分野的には成人の身体障害者を対象とする施設であるかも知れないし,精神科分野に携わる療法士であるかも知れない.一概に『作業療法士として……』と言っても,その背景はさまざまであり,それぞれに要求される適性も幾分違ったものであろう.今回のテーマでは特に治療場面で直接患者に接する臨床家としての作業療法士と限定して話を進めていくことにする.
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