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はじめに
作業療法とは,何かをさせることによってその人に身体的にも,心理社会的にも何らかの効果が認められることに着目し,活動というものが治療の手段に用いられたのであると言われてきている.歴史的にふりかえってみると,そこには,いつも精神障害を対象にした最初の姿がある.精神障害への領域では,おそらく活動をすることは不安に対する自然の矯正手段であるところから,何かをさせていれば不安が和らぐであろうと説明されてはいる1).何かをさせていることだけで身体的に,あるいは心理社会的に何らかの影響をもたらすことは事実であるが,その時に活動の性質や特性は全く関係しないのであろうか.
作業療法の分野でその活動の治療的意味づけを比較的簡単に“関節可動域の増強”,“筋力の増強”,“協調性の改善”,“創造性の獲得”,“耐久力の改善”,等列挙して治療目的としている.しかしながら作業療法が扱う治療の手段としての活動は,人間の社会への適応に関わる機能の獲得のように思える.すなわち適応能力を身につけたり,あるいは社会において機能的であるための手段として不可欠なのが活動なのである.したがって,作業療法士の大きな役割は,対象者の評価を通して,その問題となる機能の欠如を見い出すことである.作業療法は誕生してから死ぬまで,すなわち乳幼児期から老年期までの障害を持っていたり,その危険性を持つ人々を対象として彼等への身体的,心理社会的なサポートを与えるものなのである.かなり大げさに,響くかもしれないが,ここに作業療法士は人間の身体的知識を持っているのみでは食べてはいけない理由がある.人間の心理的社会的機能に関する知識をも充分持ち,対象者達のこれからの生活を見つめていくことが必要なのである.
“作業療法士は神様のようである”とよく言われている.そのことが,作業療法の養成課程の学生達にアイデンティティを見失わせている.彼等が社会に出た後,いつ頃から自信を持って働き始めることが出来るのかをつかみとることは出来ない.治療的媒体として利用する活動の本体をとらえようとする努力はこれから必要なことであろうと大いに期待したい.
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