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Key Questions
Q1:急性期,回復期の病棟から作品づくりが姿を消しつつあるのはなぜか?
Q2:箱づくり法と活動分析の意義は?
Q3:作品と作品づくりの違いは?
はじめに
“もう,何もできなくなってしまった”と,絶望感に打ちのめされていた,交通事故による頸髄損傷の青年が,OTと一緒につくった自助具を使い,まっ白な和紙に筆で「気」という字を書いた.受傷前に書道をやっていただけあって,すばらしい字であった.“俺にもまだこんな字が書けるんだ”と言って,その青年は満面の笑みを浮かべて私を見た.その作品を作業療法室の入口の掲示板に画鋲で留めた.彼はその前を通る患者さんに“これ,俺が書いたんだ.うまいだろう”と自慢していた.
まったく何もやろうとしなかったその青年は,このときを境に,何かが吹き飛んだように,OTと一緒に,食事,歯磨き,洗顔,髭剃り,着替え等の自助具を製作し,自分の生活の再構築に挑んでいった.当時,自助具の製作は,商品開発や発想法の技法を用いて,アイデアの段階から患者さんと共同で作製していた.彼は,退院と同時に結婚し,江戸時代から代々続く家業の民間薬の商いをしながら,田舎で奥さんと一緒に暮らしている.筆で書いた小さな作品ではあるが,作品づくりは,このような力をもっている.
日本の社会を取り巻く経済的・政治的に厳しい状況の中で,診療報酬が改定され,急性期,回復期のリハは主に医療保険で,維持期のリハは主に介護保険で,という医療と介護の役割分担がなされるようになった.入院期間の上限が疾患ごとに決められ,回復が期待される急性期に手厚いリハ医療が受けられる.在宅復帰率や日常生活機能評価の改善率に応じて,回復期リハ病棟入院料の点数が加算される.急性期,回復期の作業療法は生活機能の改善に力を入れるのが当然の流れになってきている.
本特集で扱う作品づくりは,今,急性期,回復期の病棟から姿を消しつつある.しかし,それは医療制度が原因だけではなく,すでに,かなり以前から,作品づくりは評価と治療の担い手としての役割を見失い,その結果,病院での居場所がなくなってしまっていたのではないだろうか.
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