The Japanese Journal of Physical Therapy and Occupational Therapy
Volume 14, Issue 2
(February 1980)
Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
1.はじめに
パーキンソン病患者の知的障害の可能性に関する疑問は,種々の観点から研究がなされてきた.初期の研究には,用いられたテストの妥当性,対照群との比較がないといった批判があった.その後,これらの批判を解決したいくつかの研究によって,パーキンソン病患者は少なくともある程度の知的障害を伴うとの見解が出された1,3-4).最近の研究では,L-Dopa治療によって多くの患者は,臨床症状の軽減と同時にWAISの各スコアも有意に上昇し,とくに非言語性テストにおいてその上昇は著しいことが報告されている.Meierらは10),WAISスコアの上昇は純粋に認知機能が改善されたのか,あるいは運動機能の改善に反応した変化であるかを知るために,WAISスコアの上昇した程度を10以上と10未満の2群に分類し,peg boardなど4つの動作能力のスコアの改善について比較した.ところが,2群間の動作能力の改善には有意な差がなく,このことからWAISスコアの上昇は運動機能の改善に反応する以上に,薬の神経化学的効果によって抑圧された潜在能力が解放・促進されるように見えると推論している,Lorangerらは2),理学的症状は改善された状態を維持しているにもかかわらず,初期に改善したWAISスコアは平均30カ月後には治療前のレベルまでふたたび戻ることを報告している,理学的症状には,神経学的臨床症状の他に脂漏,流誕,眼瞼けいれんおよびマスク様顔ぼうも含まれている.衣服着脱,食事,歩行など11項目のADL動作に関する自己評価による動作障害は,理学的症状とは異なり,初期の改善レベルからは悪化方向を示していた.これらは,知的障害が単に運動障害による二次的影響ばかりでなく,疾患そのものによる障害であることを示唆している.
もし,パーキンソン病患者が器質的な知的障害を伴うとすれば,医学的治療によって身体的能力は改善されても患者の社会的,職業的リハビリテーションは,知的障害のために制限されることが考えられる.このような仮定のもとに,Reitanらは17),①動作を伴う課題遂行を中心にしたテスト,②動作による反応は要求されるが問題解決の要素も含まれているテスト,③動作による反応が要求されない問題解決の要素が中心のテスト,を行った結果から,パーキンソン病患者では運動能力だけでなく問題解決および認知機能も障害されていることを明らかにし,パーキンソン病患者のリハビリテーションプログラムの再検討の必要性を提示している.
最近,リハビリテーションの対象として慢性進行性疾患が増加しており,パーキンソン病はその代表的なものである.パーキンソン病患者のリハビリテーションを行う際の患者の問題を,単に運動障害としてとらえるか,あるいは知的障害を伴うものとしてとらえるかは治療プログラムの決定にとって重要である.
そこで,パーキンソン病患者の知的障害に関連する要因の推定を目的に,パーキンソン病患者の知能をWAISによって測定し,性・年齢,罹病期間,学校教育年限,動作能力,神経学的臨床症状および障害度などの変数との関連について検索した,
Copyright © 1980, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.