とびら
居場所
小野 敏子
1
1新潟大学医学部付属病院
pp.1
発行日 1980年1月15日
Published Date 1980/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1518102064
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職場を得たならば「居場所」がある,という考えを私は否定したい.「居場所」は努力して得させてもらうものであり,新しい職場へ赴いた者にとっては,仕事人としてのそれを得るということが難しいが取組まざるを得ない大きな課題なのだ,それは経験のあるなしに基本的には関係のないことなのだと,心ある先達から言わせれば当り前のことかも知れないことに対して,私は改めて強調してそう言い切りたい.(「居場所」という語を,その場に定着して役割と責任を持って仕事に当らせてもらえる立場と解釈して下さってもよい.)
この課題をなおざりにして躓いた新人をかつて何回か目の当りにしてきた.生半可な知識や片寄った興味を振り回して我が者顔で歩いたり,やたらと既存のものに対して悪口を並べ立てたり,厚い壁に突き当ると体当りも試みないでヘナヘナとしたり等々の姿を見ると,私もついこのあいだまでその何れかであったことに思い至る.この人は(私は)血みどろの努力を何もしなかったのではないだろうか.とんでもない思い上がりをしていたのではないだろうか.ちょっと視点を変えることによって,つまらないと感じていたものにも興味深い広がりを持たせることができたり,必死で食い付いてみたりすることで,意外なところに問題解決の糸口を見つけ出せた場合もあったのではないだろうか.
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