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Ⅰ.はじめに
“我が国における理学療法は学問として,その体系化と水準において十分確立しているか”と問われたら,あなたはどうお答えでしょうか.
理学療法士の身分制度が成立してから13年.有資格者の数2,000余り.専門学校は14校.最近の学会発表演題数100余り.専門誌として,医学書院発行の「理学療法と作業療法」,日本理学療法士協会の機関誌「臨床理学療法」,そして全国病院理学療法協会の「理療」などがある.
戦後,我が国において,理学療法は国立大学病院などを中心に,マッサージ師によって実施されていた.それらの人々によって,全国病院理学療法協会が設立され,理学療法の水準は高められてきたといえる.しかし,正規の理学療法教育を受ける機会の無かったことをおもえば,その水準がどこまで学問的であったかということは疑わざるをえない.聞くところによると,戦後まもなく,マッカーサの勧告を受けた日本政府は,理学療法士を正規の教育機関で即刻養成せず,臨時的対応策として,マッサージ師に理学療法の業務を実施させた.当時の国情(経済,認識度など)からしてやむをえないことだったとしても,これは我が国の理学療法の前途を混迷にしたといえる.諸外国にもこのような例がない訳ではないが,我が国では盲人対策として,はり・きゅう・マッサージが奨励されてきただけに,明確な対応策が取りにくかったことも影響している.
昭和38年,清瀬に初めての学校が設立され,40年には身分法の成立をみたことは喜ぶべきものであったとしても,厚生省管轄下における各種専門学校の閾は出ていなかった.
また現在でも,国家試験という資格試験制度がありながらも「医師の責任のもとに」と称して,無資格者しか勤務していない所でも理学療法が実施されている事実は矛盾を含んだものである.そして,これは国民が同水準の理学療法を受けているとは断言できないことを意味してもいる.
それでも,全体的にみれば,我が国の理学療法は発展の途にあるといってよいだろう.ただ,その発展が質と量の調和の中ですすめられて行くために我々はどうあればよいかという問題意識は常に保持されていなければならない.
筆者はここ7~8年,臨床を中心に,協会の仕事や学校教育に微力ながら関係してきた.そして特にここ数年来,理学療法の学問的体系化を推進することの必要性を強く意識するようになった.これは筆者に限らず,諸氏も同様に感じておられることとおもう.
この小論の目的とするところは,命題が示すように,理学療法の学問的体系化について種々の考察を試み,それらを表現することにある.今後,我々が継続的に討議して行くための叩台の一部にでもなればとおもう.なにしろテーマが巨大で,筆者の能力の及ばないところとおもうが,ヘミングウエーの「老人と海」の主人公のような気持で挑戦してみたい.
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