Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
Ⅰ.はじめに
中枢性運動機能障害のうち筋緊張異常は,理学療法を行なう上でも大きな問題となっている.筋緊張異常亢進の主なものとして痙縮固縮がある.これは筋の伸展抵抗の感じや筋の硬さの性状あるいは腱反射などによって区別しているが,実際にはいずれとも断定できない場合が多い.痙縮,固縮を共に伸張反射の亢進状態と定義し,筋の伸展によりPhasic(相性)反応相が少なく,Tonic(緊張性)反応相が長く続くものを固縮,Phasic反応相が増強していてTonic反応相が欠けるものを痙縮とすることが提案されている1).
従来痙縮は錐体路症状,固縮は錐体外路症状,と解剖学的に大まかな分類が行なわれていたが,近年α運動系,γ運動系という概念が生まれ,さらにdynamiCγ,Staticγ,Phasicα,Tonicαという機能的に異なった二つの要素から筋緊張異常を解明していこうとする方向にある.
以前より固縮はγ系の機能亢進と深い関係があることが認められていたが,最近Hagbarthら(1970)は,細かいタングステン電極を用いてパーキンソン病患者の末梢神経から筋紡錘活動に由来すると思われる求心性インパルスを経皮的に記録しγバイアスが高まっていることを明らかにした.現在のところ,固縮の発現機序としては,γ系の機能亢進がありγ環を介した持続的収縮によって固縮がおきるというHyper-γの状態は存在すると思われるが,それと同時にα細胞自身にもγ系からの賦活とは別に機能亢進がおきていて,γ系の機能亢進が強調されていると考えるのが妥当であろう2).
一方痙縮では,痙縮をα系の亢進とする3,4)ことに対し,固縮,痙縮ともγ系の亢進とし固縮は,statieγ痙縮はdynamicγの亢進と考える行き方がある5),痙縮では自発性のlaインパルスは発生しておらず,従って緊張性staticγの活動はないと思われが,相動性の伸展に対しては伸張反射が高まっているのは事実で相動性dynamicγの亢進が存在することは十分考えられる.
筋緊張異常をα系あるいはγ系の機能異常として把握していこうとする試みは,その病態生理機構解明に重要であり,理学療法を行なう場合にも,治療のための手掛りを得ることができると思われる.
α,γ運動系の機能異常によりどのような運動機能の異常がおこるのであろう.これを骨格筋の機能分化の面から考えていくことも痙縮,固縮を考える上で意味あることと思われる.
動物の骨格筋には白筋と赤筋があり収縮の速度から前者は敏速筋,後者は緩徐筋とよばれている.Bullerたち(1960)は,ネコにおいて緩徐筋,敏速筋を支配している梢神経を切断して敏速筋支配の神経を緩徐筋に緩徐筋支配の神経を敏速筋につなぎかえることにより緩徐筋の収縮速度が速くなり,敏速筋のそれが遅くなることを観察している.骨格筋における機能分化はその筋自身の性質というより,それを支配している運動細胞の性質によっているといえるだろう.時実(1955)は,単一神経単位(N・M・U)の発射活動の解析からすべての骨格筋が機能的に異なるKinetic NMUとTonic NMUに分化していることを明らかにした6).この機能的な分化によって,我々は効率良くまた円滑な運動を行なえるのである.しかし病的な状態,たとえばパーキンソン病患者では,Kinetic NMUでもTonic NMUの発射様式を示すという.島津ら(1962)は,パーキンソニスムに対する定位脳手術前後におけるN・M・Uの発射様式の分析からKinetic NMUでも筋紡錘発射が増強している状態ではTonic NMU的な発射様式を示し,Tonic NMUでも筋紡錘からのインパルスを断てばKinetic NMUに変化することを報告している7).即ちこうしたKinetic~Tonicの移行はα細胞自体の性質よりむしろこれを支配するγ系の状態に依存すると考えられる.
筋緊張を定量化するため,今回我々は誘発筋電図を利用した.脊髄を迂回してくるH波の分折により脊髄レベルでの運動細胞の興奮度を測定することが可能である.H波の応用による研究方法はこれまで数多くのものが考案されているが今回我々は井奥により考案された頻度抑制曲線を作製することにより固縮痙縮の分析を行なった.
Copyright © 1976, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.