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はじめに
われわれは全身の筋の収縮によって運動し,姿勢を保持することができる.筋がある程度収縮している状態を筋が緊張しているというが,各種の疾患によりその筋緊張が異常に高進することがある.しかもその高進の様相が疾患によって特徴的に異なっているので,そのことからこれらを固縮rigidityと痙縮spasticityに区別している.
固縮と痙縮が起こる機序については,前世紀以来英国のSherringtonを中心に研究が進められてきたが,筋運動の制御機構が生理学的に解明されてくると,固縮と痙縮はそういった機構の障害であることが判明した.したがって,古い時代からしかも臨床症状の面から定義されてきた固縮と痙縮も,その埋解にいくつかの不都合が生じてきた.現在でもなお解決できないままで幾分の混乱がある.それのみでなく,最近では重金属などによる新しい型の神経障害による臨床症状も現れてきて,これらを従来の呼称だけでは表現するために十分でなくなってきた.固縮と痙縮について本邦でも,ここ十数年にわたり藤森聞一北大名誉教授を中心とした活発な研究がなされ,本年5月に単行本「固縮と痙縮」が出版された4).本著もその線に沿って痙縮についての問題点を記述したい.
sherringtonの高弟のなかにGranitとEcclesがおり,彼らによって現代の中枢神経研究は集大成されたといっても過言ではないであろう.臨床に向かったDenny-Brownは,その著書のなかで痙縮を次のように定義している2).痙縮患者の関節を屈伸し,ある筋を引き伸ばすとき,筋がその伸びに抵抗する.正常の場合にはそういった抵抗は感じられない.抵抗の発生具合をみると,伸びの開始と共に最大となり,その後伸展が持続しても抵抗がかえって減少する.折りたたみナイフ様の抵抗発生となる.進展を急速にすればするほどその抵抗が強かったり,指や肘関節では伸筋の方が屈筋より折りたたみナイフ現象が著明であったりする.痙縮にはそのような規則性や特質はあるが,複雑な随意運動や奇妙な不随意運動でも抵抗があったりして,痙縮と同定し難い場合が多い.痙縮の特微は,伸展の速さすなわち伸びの速度に比例して収縮も強くなること.したがって,腱反射のように腱を叩き筋を急速に伸ばすと,もっとも大きく筋は収縮する.この腱反射が痙縮では高進している.重い痙縮患者では腱を叩かなくとも,筋をゆっくり伸ばしただけで腱反射にみられるような早い筋収縮が現れる.
痙縮は脊髄の前角に細胞体をもつ運動ニューロン,これをアルファ(α)運動ニューロンと呼んでいるが,それを支配する上位ニューロンの障害で筋緊張の異常が起こり,筋を受動性に伸展すると反射機能の異常により特有な反応を示す.筋伸展という末梢からの入力に対する反応の解析から痙縮を考えてみる.
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