- 有料閲覧
- 文献概要
本書は,I.総論,II.錐体路系と錐体外路系の機能とその相関,III.錘体路系,錐体外路系の障害と固縮・痙縮,IV.小脳の機能と固縮,V.脊髄機能と固縮・痙縮,VI.固縮・痙縮の神経生理学的解析法,の6章から成つており,それぞれの分野における優れた方々が分担執筆している。編者の序文にあるように本書は第3回日本脳波・筋電図学会大会におけるシンポジウムの内容を中核としてまとめられたもので,従つて電気生理学がその主体をなし一部生化学も含めて,いわゆる固縮と痙縮を中心に,関連あるその周辺をも改めて,現在における固縮,痙縮についての知見が程よくまとあられている。臨床にたつさわる神経科医(Neurologist)にとつて,固縮,痙縮は日常,それなしには過されないものであるが,実際にそれが如何なる機序によつて生ずるものであるかを必らずしも十分に承知しているとは限らない。本書はそれらを理解する上に好個の書ということができよう。「固縮と痙縮」という表題からは,ややもすると難解な基礎神経生理学を想定する人もあろうが,相当に臨床を念頭に置いて執筆された跡がみられ,恐らくは編者の意図によるものであろうが,執筆者の努力も多としたい。それは本書の副題の「その基礎と臨床」にも現われている。それでもなお,本書を通読して感ぜられることは,生理学の立場からの固縮・痙縮と,臨床の立場からの固縮・痙縮の異同である。これについて多くを書く紙面はないが,後者の立場からすれば,古くは筋緊張亢進全体が一括してrigidityといわれていたものが,その特性によつて細分され,痙性固縮spastic rigidityすなわち痙縮spasticltyや,パーキンソン病にみられる筋緊張亢進すなわちparkinsonian rigidity,同様にwilsonianrigidity,athetosic rigidity,などといわれるようになり,固縮rigidityとは臨床的にはelementaryな筋緊張亢進を指摘しているものでなく,いわば総括名である。従つて現在rigidityといえば臨床的には錐体外路性の筋緊張亢進一般をさしている場合が多い。これに対し,電気生理学的には,rigidityはspasticityとは対照的な極めて特異な性質をもつ現象を以つて示されるelementaryなもので,ここに基礎と臨床との間で用語上の混乱を生じている。本書においては,このような矛盾点には特にふれず,生理学的な観点から出発して固縮と痙縮が論ぜられているため,本書の内容はよく理解されても,それがそのまま臨床に結びつかないという面を感ずる人があるかもしれない。このような点から,総論の中に臨床的な観点から,筋緊張概論の中における固縮と痙縮についての記述もあつて,基礎と臨床の立場における相違点の指摘が十分なされていた方が一層よかつたのではなかろうかと思われる。
Copyright © 1975, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.