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Ⅰ.はじめに
リスク(risk),この頃良く耳にする言葉であるが,辞書によると,危険,危険率(手術後の経過に使う)等とあり,ある事象に対して確率的に危険性と予防策を考慮した方法論と考えられるが,上田1)が以前に本誌に詳しく書いているので引用すると,riskとは単なる危険ではなく,予想される危険,可能性としてある危険で,英語ではat a calculated risk(計算されたリスク)という成句もよく使われ,この程度の危険があることは十分承知の上で,それでもなおかつマイナスよりプラスの方が大きいと見て何事かを行うということで,起こり得る危険の率はこのくらいであろうと言い,確率的な予想の考え方が入っているのが特徴であると述べている.それでは精神科における作業療法中のリスクは何かと考えた時,まず考えなければならないことは現在の日本で精神科医療に従事している医者,看護者,そして作業療法士自身を含めて多くの人達が生活療法と作業療法について混同して考えられ,どこまでが生活療法でどこまでが作業療法かという明確な区別がつけられていないということである.そのため,どこまでを作業療法のリスクに入れるか非常に難しい問題であるので少し生活療法について説明しておくと,我国の精神科の中では生活療法と呼ばれる療法論があり.秋元2)によると,生活療法には作業療法やレク療法とは直接かかわりのない看護業務と考えてもよい「生活指導」をその中にとりいれ,これを作業療法やレク療法の基礎と見做し,さらに音楽療法,絵画療法,演劇療法(心理劇を含めて),図書療法,社会療法などをすべて網羅するように拡大され,作業療法はその一分野であると解されていることである.本来,作業療法はアメリカで発展したもので,精神科医療で古くから用いられている作業療法は単なる医療技術,職業教育にとどまるものではなく,あくまでも作業と活動を通じて患者の障害された精神を治療することで,その意味では,アメリカ作業療法士協会が作業療法を精神療法として規定した(1956)ように情神療法といってもよいように思われる.
このことをふまえた上で,私共が現在行なっている作業療法の中から経験したことを中心にリスクを考えていきたいと思う.
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