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精神科医療は昭和25年に精神衛生法が公布された。一方,我が国はそれ以降自由主義国で1,2の地位を占める発展を遂げたが最近になりバブル経済がはじけ,いささか経済的には停滞的である。精神医療に関しては,太平洋戦争前後の数年間はほとんど各先進国の精神医学や精神医療からは孤立していたといっても過言ではない。しかし復興につれ,すなわち経済的な発展と医学の発展につれ,我が国の疾病の種類も変化し,精神病などがクローズアップされ出した。またいわゆる高齢化社会に突入し,老人性疾患特に老人性痴呆もまた大きな問題となってきている。したがって精神科医療(精神科作業療法)について論ずる場合も時代の変化に十分に留意しなければならない。私は主として,病院(地域)精神医学会の学会誌(昭和32年から平成4年まで)での動きを中心として病院精神医療の変革と,それに並行して精神科作業療法の変化を述べたい。
昭和の初め16年間は精神分裂病は内因性疾患で電撃療法・インスリン衝撃療法以外には治療法はなかった。医療と保護が精神病院の仕事であり,患者が治癒して社会復帰することは期待されなかった。しかしその中にあっても松沢病院や中宮病院などでは先覚者が作業療法を熱心に実施されていた。一人は松沢病院での加藤普佐次郎氏である。彼はドイツ留学から帰られた呉秀三先生の理念と実践とを受け継いだ。加藤は作業療法は①治療的,②慰安的,③経済的を三大利点とした。治療的には精神分裂病・躁うつ病などにも効き,障害者のリハビリテーションとしても有効であるとしていた。また実施していた作業療法の種目としては①土木工事・農業蓄産,園芸や建物修理・運搬・雪の蓄積および除雪など,②屋内作業としては下駄鼻緒製作・裁縫(和・洋)・洗濯・わら加工・縄もつこ・草履・紙粘土細工・袋貼りなど,③特殊作業として事務補佐・医務補佐など機関部門・理髪・炊事等の補助,④それ以外に舎宅掃除・留守番・使い走り,⑤院外作業として砂利採取・製茶・農耕などの手助けであったが,これらをとおして開放治療と作業療法とにより治療効果を上げ,また患者の小遣いの助けともしていた。
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