- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
切断者のリハビリテーションの目的は,手足の切断という大きな心理的ショックをできるだけ軽減しながら,できるだけ早期に安定した成熟断端をつくり,義肢の早期装着訓練を行なって終局的には,早く社会へ復帰させることにある.
従来から切断者に具体的に行なわれてきたリハビリテーションの実施方法をふり返ってみると次のように考えられる13).
(1)切断術前の心理的リハビリテーション
(2)義肢の実用性と残存能力の最大利用を目的とした切断部位の選択
(3)切断手技としては,主として筋膜縫合による筋肉の処理
(4)術後の弾力包帯の施行と,ベット上での良肢位の保持
(5)断端訓練と断端の看護
(6)断端の状態の安定性をえた後の義肢の処方
(7)義肢の適合検査とその後の装着訓練と評価
(8)社会復帰後の追跡調査と義肢のアフターケア
しかしながら,このような方法を具体的に実施するときには,実際的には,かなり問題が多いことを経験する.すなわち,
(1)切断端の疼痛,幻肢痛がかなり強い
(2)したがって,断端の不良肢位発生の予防が行ないにくい
(3)弾力包帯の施行にかなり技術を必要とする.
(4)断端創の治癒が遅れる
(5)断端の状態は不安定で,成熟断端の早期獲得が困難である
(6)したがって義肢装着し社会復帰するまでの期間は長く.多くは4か月以上を必要とする
そこで,このような切断者のリハビリテーション過程上の矛盾を少なくし,もっと早期に義肢の装着をさせようとしたのが,本編の主題である切断術直後義肢装着法(Immediate postsurgical prosthetic fitting)である.早期に,仮義足を装着させて歩行をさせ成熟断端を得ようとする着想は,すでに18世紀から報告されている.これを具体的に実行したのが,Berlemont1)(1957年)である.彼は,切断後に積極的に断端訓練を行なうとともに,ギプスソケットによる仮義足を装着させ,断端痛の減少とともに断端の良好な治癒をえている.このような結果と義肢装着までの期間が長くかかることから切断後にギプスソケットを装着する時期を段々と早め,1958年,Berlemontは,最初に手術台上での義足の装着に成功している.この場合の切断手技にmyoplastyを行なっているが,この断端筋肉の処理につき特に注目しこの切断した筋肉をできるだけ生理的な緊張を保つよう骨端部に縫合する方法(physiologic amputation)を重要視したのがWeiss20,21)である.Weissは,この筋肉縫合法と切断術直後の義肢装着法,および早期の歩行訓練(early ambulation)が切断者のリハビリテーションのゴールであるとしている.この切断術直後の義肢装着法は,1963年コペンハーゲンで開かれた第6回国際義肢学会で発表されて画期的な方法として世界各国の注目をあびる結果となった.現在,諸外国で追試され2,3,5,8,9,17,19)本邦でもすでに松本7),武智18)らの報告があることは衆知のとおりである.
われわれも,本法の画期的な着想に興味をいだき,昭和38年度より神戸大学医学部整形外科および兵庫県リハビリテーションセンターにて本法の追試を行ない,現在まで切断術または断端形成術直後にギプスソケットを装着させた症例は90例となっている.その成績の一部はすでに報告したとおりである12).本法と関連のある切断手技については,家兎を用いての大腿切断において異なる筋肉処理法を行ない,組織学的,脈管学的および筋電図学的な見地から検討を加え報告している6,10,15).これによると,切断時の筋肉の処理は,術前と同様の緊張下で骨端部に縫合することにより(グラフ1参照)すぐれた断端をうることができることが認められている.
切断術直後の義肢装直法を実際に行なっている現場で重要なことは,切断者によく本法の説明を行なうことと,医師,看護婦,PT,OT,義肢製作者およびケースワーカー間のチームワークである.このチームワークということばが絵にかいた餅にならぬようにするためには,いうまでもなく各職種間の理解と努力の積み重ねが不可欠の条件である.現在,われわれは,なお,色々と問題をかかえているが,徐々に本法の施行を常識化しつつあり,ここでは,本法の施行の実際と,その問題点についてのべてみたい.
Copyright © 1971, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.