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はじめに
リハビリテーションが可能であり,現に外国では以前からそれが行なわれていながら,わが国ではまだ広く手をつけられるに至っていない疾患がかなりあるが,進行性筋ジストロフィー症をはじめとする筋疾患はその代表的なものともいえるであろう。これ以外にもたとえば二分脊椎(脊椎破裂症,spina bifida),高位の頸髄損傷による四肢麻痺(特にC4,5レベルのもの)なども,欧米に比し日本ではまだリハビリテーションへの努力が不十分である。そのような立ち遅れが生じた原因は,リハビリテーション医学全般の出発の遅れをはじめ種々考えられるが,進行性筋ジストロフィー症の場合には,進行性の疾患であることとその臨床像が種々の点でポリオや脳性麻痺などの一般的な小児肢体不自由といちじるしく異なっていることがリハビリテーションの発展をさまたげる大きな要素であったように思われる。現在でも本症のリハビリテーションについて論じようとする場合,「進行性の疾患にリハビリテーションは可能なのか」,「訓練などしてもはたして効果があるのか,かえって害はないのか?」という疑問が医学界に広く存在していることを無視して始めることはできない。
筋ジストロフィー症のリハビリテーションの出発はこのように遅れたが,最近数年間におけるこの面での進歩はいちじるしい。これは徳島大整形外科のグループをはじめとする熱心ないくつかの研究グループがあらわれたことにもよるが,更に患者とその家族によって組織された「日本筋ジストロフィー協会」の活動が大きな陰の原動力となっている事情を見逃すことはできない。この協会の働きかけがきっかけとなって厚生省は数年前から全国数カ所に本症児童の収容治療施設を設けてきており,そこではリハビリテーションをいかに行なうかが現実の課題となってきている。
一方,医学研究の画でも本症の病因論や遺伝についての近年の進歩はいちじるしく,それが多くの医学研究者の関心をひきつけ,そして同時に治療―リハビリテーションへの関心の増大ともなっているという事情もはたらいている。
筋ジストロフィー症のリハビリテーションはまだ発展途上にある。近年本症のための特殊な装具の開発など,いちじるしい進歩のみられた面もあるが,全体としてみた場合には残された問題がまだあまりにも多い。本稿は国立下志津病院(千葉県四街道町)と東大病院リハビリテーションセンターにおける経験を中心に,国内外の見聞,文献的考察を加えたもので,ある程度中間報告的な性格をもっていることをお断わりしておきたい。
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