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I.はじめに
前庭眼反射は従来,温度眼振反応や回転中および回転後眼振により観察されてきた。温度刺激検査は一側耳ずつの迷路反応を知ることができるので,末梢迷路疾患の患側決定には優れた検査方法である。しかし本検査は刺激が非生理的であることに加え,暗所あるいはフレンツェル眼鏡下という,本来の機能と無関係な条件における眼球運動を観察する欠点を有する。回転検査は回転刺激を用いてはいるが,刺激様式が日常経験される頭の回転運動とは異なり,また暗所の眼球運動を観察する点で温度刺激検査と同様の欠点を有する。前庭眼反射の最も重要な機能は頭の回転運動の際,眼球を頭部に等しい角度だけ正確に反対方向に駆動させる,すなわち,頭部回転の速度,振幅に見合った代償性眼球運動をおこすことにある。したがって前庭眼反射が本来の機能を発揮しているか否かを知るためには,時計にたとえると単に動いているか否かを調べるのでは不十分であり,正確に時を刻んでいるかどうか,進み遅れがどの程度あるかを調べる必要がある(Robinson1))。また時計の進み遅れは,時計が一番利用される条件において検査されることが望ましい。このためには,明所における能動回転中の固視の状態を知る必要がある。
以上に述べた理由から,筆者らの教室では昭和52年以来,種々の視性条件下で被験者に能動的な左右頭振り運動を行わせ,その際の眼球運動,眼と頭の合成運動(空間的な視線方向)を観察することにより,能動回転中の固視に占める前庭眼反射の役割を検討してきた(高橋他2,3),Takahashi et al. 4,5)。この結果,従来の検査方法では,観察することができなかった前庭眼反射の性質の一端を明らかにすることができた。以下に本検査のための記録装置および記録方法,記録波形,診断的意義について述べる。
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