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I.ショック―低血圧―昇圧剤は妥当な処置か
外科系の医師のみならず,どの分野の医師にとつてもショックほど間髪をいれない治療の実施が求められている病態はないといつても言い過ぎではあるまいし,またショックぐらい早期発見と初療の適否が患者の生命を左右するものがないともいえよう。しかも外科系の医師にとつて,治療行為として行なつている手術中,あるいは術後に何らかの原因によるショック状態に遭遇することも決して稀有なできごとではないだけに,外科医を始めとした医師のショック患者に対する反応はきわめて敏感であり,その原因が明らかでない場合でも,まず輸液,輸血路と気道の確保とともに,本稿の主題である昇圧剤や副腎皮質ステロイド剤を使用することが一種の基本的な治療パターンともなっている傾向があり,このような緊急的処置によりいつたん血行動態が落着いてからあらためてショックの原因を考え,その排除,是IEに努めるという方針がとられている。「ショック治療のVIP」として,換気のventilation,輸液のinfusion,心機能のpumpあるいは末梢血流,灌流のperfusionが重視されていることから考えて,前2者はまことに当然な処置であるが,昇圧剤による血圧低下への対処は果してすべての場合に妥当なものであろうか?ショック―低血圧―昇圧剤という関係が常に成立すれば,そこに何の疑問をさしはさむ必要もないが,今日のショックに関する考え方からすると,ショックとは単なる低血圧状態を意味するのではなく,何らかの原因による末梢循環不全(循環血液量,心拍出量の減少,血管壁の緊張度の低下など何によろうと,血管床に対する循環血液量,血流量の相対的,絶対的減少による)とそれに起因した組織代謝障害が本態であり,ショックの病態の中心がいわゆる微小循環系の機能不全であるだけに,単なる血圧の上昇・是正がショック治療として妥当でないばかりか,場合によつてはむしろ増悪への一途を辿らせる危険性をはらんでおり,昇圧剤の無批判な使用がいましめられている所以もここにある。しかし一口にシッョクといつてもいろいろな原因により,またいろいろな病態を示しているものがあり,そのなかの特別の場合には昇圧剤の使用も是認される。本稿の主題「昇圧剤の使用の要点」は何もショックに限定されるべきではなかろうが,その使用の適否がもつとも重大な影響を与えやすいショックを中心にして,適応,選択などについて概要を述べよう。
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