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I.はじめに
近年,交通事故による傷者は年々減少しているとは言え,その絶対数は,なお大きな社会問題となつている。救急医療は未だ十分整備されているとは言えないが,その体制と救急医療の進歩は年年死者を減少せしめている。一方,従来,死に至る程の事故者が救命されるに従い,重篤なる後遺障害が問題になつて来ている。頭部外傷事故の後遺障害対策について各科で種々の研究がなされてはいるが,その中で効果の著明であるにもかかわらず眼科と耳鼻咽喉科の境界領域であるため未だ全国的に普及していると言い難いのが視束管骨折に対する視束開放術であろう。頭部外傷における視力障害は約1.5%とされており,また,深道によれば某病院での顔面外傷788例中眼機能障害を呈したものは18例(4%)であり,さらにその内視神経管骨折を認めたものは4例であると言う1)。さらに頭部外傷による視神管骨折の頻度は20%より95%の多きに亘り,報告者により意見の一致をみないとするものもある2)。いずれにせよ頭部外傷により,かなり多くの視力障害者が存在するのは事実であるし,発生のメカニズムは別にして私たちの経験をもつてすれば適当な時期に視束管開放術を施行すれば,相当高率に視力の改善が見込まれ(私たちの症例群では78.9%),視力においても視野においても術前より悪化した例は1例もない。しかし,多くのこれら患者群は経過観察のためと称し,みすみす手術至適時期を逸しているのではないだろうか。深道はX線写真(視束管撮影)で骨折を認めたものは手術侵襲を加えるべきであるとしているが1),たとえ骨折を認め難くとも頭部外傷後の視力障害があれば積極的に手術すべきであると思う。また,この種手術は眼科医が主として行なつており,手術方法も眼科手術書に詳述されている3)。しかし,私たちの施行している鼻外経篩骨洞アプローチは副鼻腔手術の局所解剖に精通しているだけ耳鼻咽喉科医に有利であると言える。したがつて私たち耳鼻科医は眼科医の協力のもとに視束管開放術を積極的に試みるべきであると思う。私たちは昭和45年11月より昭和52年2月までの6カ年余に頭部外傷に続発した視力障害19例に対し,鼻外経篩骨洞視神経管開放術を施行し,その78.9%に視力の改善を認めたので若干の文献的考察を加えて報告する。
The surgical decompression of the optic nerve through the ethmoidal sinuses was administered to 19 patients with complaints of post traumatic visual disturbances. The criteria for effectiveness of decompression surgery were: 1) visual acuity 0~sensus luminis → motus manus or more, 2) motus manus → numerous digitorum or more, 3) numerous digitorum → visual acuity 0.01 or more, 4) visual acuity 0.01~0.09 → more than 0.02 improvement, and 5) visual acuity 0.1 or more → more than 0.2 improvement. The surgery was effective for 15 patients (78.9%). There was no ineffective cases in 11 patients who had surgery within 2 weeks after the trauma, whichsuggested the importance of early surgical treatment.
No correlation was found between the degree of rising of the optic canal, or the presence or absence of the fracture of the canal and the result of the surgery.
As to the three patients out of four for whom the surgery was ineffective, more than a month and a half had elapsed before operation, andatrophy of the papilla nervi optici was observed. It was assumed that organic changes of the edema of the optic nerve resulted in degenerative changes.
The surgical decompression of the optic nerve through the ethmoidal sinuses is not technically difficult. It was suggested that otorhinologists familiar with the anatomy of the paranasal sinuses would perform this operation more positively.
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