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I.はじめに
鼓室成形術が考案・報告されて以来,すでに20年を経過している。その目的とするところは,難聴に対する機能回復であることは衆知の通りである。20年の進歩はめざましいものがあり,とくに伝音系の再建・修復のためには鼓膜材料(鼓膜形成組織)に関するさまざまな報告,伝音連鎖の修復法に関する数多くの知見などがあり,聴力改善のためについやされた努力は大きなものがあつた。
しかし慢性中耳炎に対して鼓室成形術を行なう場合には,鼓室内病変の処理,乳突洞削開にともなう外耳道後壁の問題など,いまだに残されている事柄も少なくない。なかでも,鼓室内病変は,一般外科的な見地からは徹底的に清掃し病変の治癒をはかることがのぞましいが,術後におこる瘢痕,鼓膜の癒着などによつて術前に期待されたほどの聴力には改善され得ない症例も少なくない。とくにⅢ,Ⅳ型鼓室成形術では鼓膜形成組織と岬角粘膜の位置的関係から術後性癒着が生じ易く,その結果,正円窓窩と耳管孔の間の含気腔の形成が十分でなくなつたり,あるいはコルメラ型の場合に瘢痕収縮や癒着などの外力によつてコルメラが連鎖から離脱することが考えられる。これらはいずれも術後の機能回復をさまたげる因子であつて,前述の本手術本来の目的からはずれるものである。したがつて一般には,ある程度の鼓室内病変は残しておき,可及的に術後の癒着をふせぎ,術後の回復過程で伝音連鎖の働きが阻害されないようにするというのが通例であり,いかなる病変を残すか(あるいは除去するか)は術者の経験に待つところとなる。
このように術後におこる癒着は聴力改善上好ましくないことなので,その術後性の癒着を防止し,中耳を含気腔として維持する方法もいろいろ報告されている。
最近,われわれは癒着防止製品であるゼラチン膜を使用して術後の癒着防止と中耳腔の確保に若干の利点を見出したのでここに報告し諸賢のご批判をあおぎたい。
A gelatin film was used in Type Ⅲ tympanoplasty for preventing postoperative adhesions between the tympanic membrane and the promontory wall. After the affected parts were removed the gelatin film was applied on the promontorium covering the raw area.
Three months after the operation the middle ear cavity was found to be devoid of any adhesion and the gelatin film appeared to have been dissolved. In some cases there were no improvement of hearing acuity which were revealed by postoperative hearing tests. In one case, 3 months after the operation, there was a dislocation of the columella in spite of a well maintained middle ear cavity.
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